TREMOLO [ANNEX]

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酒は飲んでも飲まれるな

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(エンジェルズシェアで呑んでた事は覚えてる。ガイアとエウルアがいたのも、なんとなくだけど……)
 目覚める前までの記憶を手繰るウェンティだが、頭はガンガンと痛み、腹の不快感と相まって集中力を削いでくる。
 それでも必死に思い出そうとするのは、自身の身に何が起こったか知るためだ。
 いや、『何』が起こったかは分かっている。自分は誰かと一夜を共にした。楽しく酒を呑んで笑い合うだけではなく、セックスまでしてしまった。
 身体に残る他者の感覚に覚える吐き気。それでも耐えて記憶を追うのは、事実を受け入れることができないからだろう。
(その後、何があった……? ディルックもガイアもエウルアも居たのに、なんでボク、こんなことになってるの……?)
 呆れるディルックと囃し立てるガイアと怒っているエウルアの表情は思い出せる。だが、それ以上を思い出そうとすると記憶は靄が掛かったように朧げになり、何も思い出せない。
 記憶に残る三人は、自分と鍾離の関係を知っている。だからこそ、繰り返される『何故』。
 あの三人が傍に居たのなら、自分がこんな事態に陥ることは無いはずだ。しかし現に事態は起こった後で、今更『何故』と『どうして』と言っても仕方がない。
 三人が傍に居ながら、自分は恋人以外の誰かと身体を重ねた。
 その真実がたまらなく恐ろしく感じるのは、今バスルームでシャワーを浴びている相手が分からないからだ。
(え……、もしかしてボク、ディルックかガイアと……? いや、そんなの絶対ありえないっ)
 ふと過る可能性にゾッとした。
 確かに二人のことは好きだ。なんだかんだ言いながらも二人とも人が良く、実に気のいい友人だと思うから。
 しかしそんな二人と身体を重ねたなんて、想像することを頭が拒否するレベルでありえない。
 二人に持っているのは、友人として好意。恋人としての感情は一切なく、触れあいたいとも思わない。
 ウェンティは事態が飲み込めず混乱している自身に落ち着けと言い聞かせて深呼吸を繰り返す。
(ディルックとガイアじゃない。勿論エウルアでもない。……あの後、あの後何があった? 誰と出会った?)
 かろうじて取り戻した冷静さのおかげか、先程まで靄が掛かり思い出すことのできなかった昨夜の記憶が僅かだが脳裏に浮かんだ。
 そこにはディルックでもガイアでもエウルアでもない人物がいて、その好青年さながらの見た目に「あ……」と唇から声が漏れた。
 無意識に手で口を覆うウェンティの顔からは見る見る血の気が引いて行く。元々白い肌は青白く変化し、死人色にまで近づいていた。
(ミカ、だ。確か昨日、ミカもいた気がする……)
 僅かにだが思い出すことのできた昨夜の出来事。
 会話の内容までは思い出すことはできなかったが、嬉しそうに笑っているミカの姿は鮮明だった。
 これが記憶の捏造であることを祈るウェンティだが、今の状況を考えると捏造ではないという結論に至ってしまう。
 自分に向けられるミカの眼差し。それに込められた熱がどういったものか、ウェンティは知っているからだ。
 思い出すのは、恋人の笑い顔。自分のことを愛おしくて堪らないと言わんばかりの眼差しで見つめてくる彼の目と記憶が見せるミカの目は、酷く似通っていた。
 途端、背筋に走る怖気。
 自分の身体に残る痕と記憶が示す『真実』に、今この瞬間目覚めることを切に望んだ。目覚めて隣で眠る恋人に『変な夢を見た』と笑いながら抱き着いて安心したい。と。
 しかし、どれほど願い望もうとも、既に目覚めている自分が『夢』から醒める事などできるわけがなかった。



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2023-10-27 公開



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