TREMOLO [ANNEX]

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酒は飲んでも飲まれるな

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 鍾離の言葉にウェンティは驚く。
 先も言った通り、記憶を失うほど昨日の自分は酒に吞まれてしまっていた。当然、力を使った覚えはない。そして、いくら泥酔していようとも悪戯に力を使う事はしなかったはずだ。
 それなのに恋人は『風に呼ばれた』と言った。つまり彼が言う通り、完全に無意識でのことだった。
 鍾離を恋しく思っていたことは間違いないが、まさか風を呼ぶほどだったとは。
 言葉以上に自身の心が彼に伝わってしまったと思うと正直恥ずかしい。だが、そのおかげで今自分はこうして彼の腕の中に居ることができる。居場所を失わず、愛おしいぬくもりを感じることができる。
 ウェンティは小さな声で意識していなかったことを伝え、迎えに来てくれてありがとうと泣き笑いの表情を見せた。
「自分の番を迎えに来るのは当然のことだ。……むしろ、来るのが遅れてすまない」
「全然遅くなんてないよ。……モラクス、大好き」
「! ああ。俺もだ。愛してる、バルバトス」
 キスを強請るように瞳を閉じるウェンティ。鍾離は笑みを深くし、愛おしい存在に想いを込めた口づけを贈った。
「夜が明けたら世話になった者達に挨拶をして璃月に連れ帰るが、いいな?」
「勿論。でも、ディルック達には本当に迷惑かけちゃったな……。流石に今回のことは呆れられそうだよ」
「それは仕方あるまい。あの義兄弟のおかげでお前は無事だったんだ。呆れられる事ぐらい甘んじて受け入れよう」
「? 無事って、ボク、そんなひどい酔い方してたの?」
 記憶に無いとはなんと恐ろしい事か。
 顔を青くするウェンティは、何をやらかしてしまったのかと眉を下げた。すると鍾離は苦々しい表情で「お前は眠りこけていただけだ」と何も粗相はしていないことを教えられた。
 だが、彼の顔を見る限り昨夜絶対に何かがあったと感じたウェンティは、教えて欲しいとせっついた。鍾離が自分を想い真実を伏せているのは分かっているが、我慢するのは違うと思ったからだ。
 真実が知りたいと食い下がるウェンティ。
 鍾離は眉間に刻んだ皺を一層濃くするも、それでも恋人からの『お願い』に否を貫けない。愛とはなんと御し難い感情だろうか。
「俺がお前を見つけた時、その傍にはお前を狙う不届きな輩が居た」
「え?」
「ガイア殿が居なけば、今こうしてお前を抱いていたのはアレだったかもしれない。それを考えると、彼にはいくら礼をしてもし足りないぐらいだ」
「え? え? ちょ、ちょっと待って? それって、もしかしてミカの事……?」
 辿ることができた記憶の断片を思い出し、確認するウェンティ。鍾離の顔は明らかに不機嫌なものになり、「閨で他の男の名を口にしてくれるな」と唇に噛みついて来た。
 言葉を奪うようなキスを受け入れるウェンティは、ついさっきディルックの名前も口にしたけどそれは良いんだ? と心の中で突っ込んで笑ってしまう。
 彼にとってはおそらく相手が抱く感情が重要なのだろう。鍾離のヤキモチがことさら愛おしいと思うのは、喧嘩の後だからだろうか? それとも、互いの想いが深まったからだろうか?
 いずれにせよ恋人の嫉妬が嬉しいと感じたウェンティは彼の首に腕を巻き付け、もっと傍に来てと引き寄せた。
「酔っぱらってるボクを抱いたのは、そういう理由?」
「それもあるにはあるが、抱いたのはお前が眠りながらも俺を呼んだからだ」
 うわ言の様に何度も何度も愛を告げてしがみついて来た恋人を前に、手を出さずにいられるわけがないだろう?
 そう開き直る鍾離にウェンティは苦笑を漏らし、「それならせめてボクが起きるまで傍に居てよ」と、目覚めた時この世の終わりかと思うほど怖かった事を伝えた。



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2023-10-30 公開



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