「それは、すまなかった。……だが、お前から香る他者の匂いにどうにも鎮められそうになかったんだ」
酔って意識が定かではないウェンティを抱いた一番の理由は、自分ではない他者の――他の雄の匂いがしたからだ。
何度も抱いて漸くそれは消えたが、全身を巡る嫉妬が消えることは無かった。
だから番を喰らい尽くしたいと暴走しそうになる凶暴な雄の本能を落ち着けるために冷水を浴びて昂った気を鎮めていたと言う鍾離。
ウェンティは濡れたままの恋人の髪に触れ、「ごめんね」と自分の軽率な行動を謝った。
龍族が一途だということは、知っている。そして番った相手に対する執着心が他の種族以上に強いという事も、勿論知っている。
きっと鍾離にとって自分以外の匂いを番から感じ取ることは、腸が煮えくり返るほどの怒りを覚える行為だったのだろう。
それでも番を――ウェンティを気遣い想い、衝動に耐えていたと聞かされれば、その想いを受け取った者は堪らなくなるに決まっている。
「もう、平気なの……?」
「お前はどう感じる?」
「平気そうに見える。……でも、そうじゃないといいなって思ってるって言ったら、どうする?」
それは誘いの言葉。
ウェンティは恋人を熱を帯びた瞳で見つめ、自分はそれを覚えていないから寂しいと鍾離にしがみ付いた。
喧嘩して、癇癪を起して家出して、悲しみに暮れて酒に溺れた昨日。ウェンティにとっては今の記憶の次に新しい記憶はそれだった。
だから、これらをちゃんと過去のことにして欲しいと強請るのだ。
愛おしい存在からの誘いの言葉に、鍾離は唇に弧を描くと「お前の望むままに」と恋人にキスを落とす。
触れるだけのキスでは物足りないからと舌を覗かせ誘うウェンティ。鍾離は己の舌を出し、誘いに絡めて深く深く口づけた。
水浴びのおかげで抑え難い執着はもう消えていた。
だが、執着のために番を愛しているわけではない。むしろ昨夜のような衝動に任せて抱いたこと自体が初めてだ。
それ故、鍾離は衝動の有無などどうでもいいと笑い、愛おしい存在を存分に愛すためにウェンティを抱いた。