「何その言い方」
昂った感情のまま言葉は口から出てしまう。その怒気を含んだ声色に鍾離の眉間に皺が寄ったのはそれからすぐの事だった。
「何故お前が機嫌を損ねる? お前が勝手に酒を呑んだことは事実だろう?」
「そうだけど、なんでそんな嫌味っぽく言われなくちゃいけないの? そっちこそ腹が立ったならそう言えばいいでしょ?」
「別に腹を立ててなどいない。自分の短慮さに辟易していただけだ」
「はぁ? 何それ。まるでボクの事何もかも理解してるつもりだったって聞こえるんだけど?」
「何もかもとは言わないが、相応の理解はしているつもりだ」
怒りを隠さないウェンティの声と言葉。反対に鍾離の声は単調で無機質にすら思える。おそらく感情的にならないよう努めているのだろうが、それがまたウェンティの神経を逆撫でした。
堪え性のない恋人を宥めている。
そんな関係性をまざまざと見せつけられているように感じてしまい、腹立たしさと物悲しさにウェンティの表情は更に険しくなった。
「ああそう。そうですか。ボクは君が思っているよりも手癖が悪かったって言いたいんだ?」
「そうは言ってない」
「さっき言ったよね?! 『お酒に対して意地汚いことは分かってた』って!!」
数刻も経たずに自分が発した言葉を忘れるなんて『契約の神様』が聞いて呆れる。
それがとても攻撃的な言葉だということはウェンティ本人も分かっていた。
勿論、本心でそう思っているわけではないのだが、面と向かって恋人に『失望』をぶつけられた直後では本心ではなくとも彼を傷つける言葉を躊躇わずに選んで口にしてしまえた。
睨む先に居る恋人の表情に明らかな怒りが滲む。そして彼を纏う空気も荒れ狂い、感情の昂ぶりが露わになった。
「自分のしでかした事を反省することもせず、逆に俺を貶めるつもりか」
「最初にボクを貶したのはそっちじゃないか!」
「貶してなどいないと何度言わせる気だ」
「そんな上辺だけの言葉、信じられるわけないでしょ?!」
鍾離にそのつもりが無くとも、受け取ったウェンティは貶されたと感じた。それが『言葉』というものだ。
互いの認識が合致していて初めて『真意』が伝わるものだと二人は良く知っている。よく知っているのだが、今はお互いに怒りが先行してそこまで気が回らなかった。
根底がずれている『言葉』の議論は平行線にしかならない。
苛立ちは増し、その都度心にもない言葉がお互いの口から発せられ、どんどん空気は険悪なものへと変わっていってしまう。
頭では『これ以上はダメだ』と何度も何度も理性が警鐘を鳴らしているにも関わらず、勢いだけで互いに責める言葉を浴びせあった。
「もういい。お前と話していても時間の無駄だ」
「! ああそうですか! 無駄な時間を使わせて悪かったね!!」
予定していた出発時間はとうに過ぎてしまっている。
埒が明かないと吐き捨てた鍾離は頭を冷やせと言わんばかりにウェンティの言葉を遮り踵を返し家を出て行こうとした。
彼の言葉全てが自分を否定している錯覚に陥っていたウェンティは恋人からの拒絶の言葉に瞳に浮かぶ涙を袖で拭うと床を蹴って彼を追い越すように家を飛び出した。
引き留める言葉は聞こえない。ウェンティは唇を噛みしめ、そのまま風の力を借りて璃月港から姿を消してしまった。