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狂おしい程愛おしい存在を抱きしめる鍾離。番の香りと他の雄の匂いに欲が暴れそうになるが、それらを抑え込んでただウェンティが目覚めるのを待った。
きっと夜が明けるまで目覚めることは無いだろうと思いながらも、それでも『早く』と急いてしまう。
恐ろしい想像は未だ頭から離れず、今こうして恋人を抱きしめているのははたして現実だろうかと自身の正気を疑ってしまう。
(バルバトスにも帰る場所がある。それは分かっていたことだ。それなのに、俺はどうして……)
愛想を尽かされていないことは、自分を呼ぶ風のおかげで知っている。だが、二度目はどうか、分からない。
鍾離はもう二度とウェンティを傷つけないと己に誓い、自身のエゴで愛しい存在を振り回すような真似は金輪際しないと抱きしめる腕に力を込めた。
「ん……、もら、くすっ」
「! バルバトス、起きたか?」
身じろぐような動きに抱きしめる腕を緩めて見下ろせば、虚ろな瞳とぶつかった。
美しい翡翠にはいつもの輝きは無く、焦点の合わないそれは悲痛な面持ちに歪められた。
「ばるばと―――」
「やらっ、やらやらぁ……、わかれぇたくないよぉぉ……」
名を呼ぶ声に重なる泣き声。驚き言葉を失う鍾離にウェンティはしがみつき、悲痛な声で傍に居てと訴えてくる。他の人を愛さないで。と。
「もらくす、おねがぃ、ほかの、ほかのひとのとこ、いかないでぇぇ」
「バカな事を言うなっ! お前以外を愛せないと何度も言わせるなっ!!」
「やらよぉ……、ぼくらけって、ぼくらけっていつもいってるのにぃぃ」
大粒の涙を零しながら泣きじゃくるウェンティには、鍾離の声が聞こえていないようだ。
その瞳を見て愛を伝えようとする鍾離。だが、その胸に顔を埋めてしがみついて悲痛な声を上げるウェンティを放すことなどできなくて、ただ力いっぱい抱きしめて『愛』を伝えてやることしかできない。
それでも鍾離の声はやはり届いていないようで、ウェンティはヤダヤダとずっと泣いている。
ウェンティの動きに合わせて香る愛しい匂いと、不快な匂い。
動きのせいか己の独占欲を刺激する片方の匂いが強くなった気がする鍾離は、己の理性が吹っ飛びそうな程の衝動を覚えた。
「くっ、……、バルバトスっ、俺は、何処にも行ったりしないっ。俺の番は、お前だけだっ」
強烈な衝動を理性で抑え込む鍾離。この衝動に身を任せるよりも先に、愛しい存在の恐怖を払拭してやるべきだったから。
しかし、まだ夢現の世界を彷徨っているのだろうか。ウェンティは鍾離の声など聞こえていないかのように彼の愛を求めて泣いている。
それは寝ぼけているというよりもむしろ酩酊状態に近い。鍾離はそこで番の世話を焼いていた義兄弟が『酒量を見誤った』と言った言葉を思い出した。
ウェンティはその見た目にそぐわぬ大酒呑みだ。相当な量を呑んでもケロッとしている程酒にも強い。
だが、極稀に泥酔する時がある。それは彼が酔いたいと心の底から願った時だ。つまりウェンティは今回の件で酩酊状態になってでも胸を押し潰す辛さを忘れたいと思っていたという事だ。
酔いたいと願いながら酒を呑んでいたと思うと、胸が痛む。そんな風に追い込んでしまった自分を許せないとも。
鍾離はウェンティを抱きしめ、辛抱強く愛を紡いだ。誰よりも愛している。と。誰よりも大切だ。と、何度も、何度も……。
今のウェンティにはそれらの言葉は何一つ届いていなかったが、それでも繰り返し伝えるのは、自分の腕の中に居る存在がかけがえのない存在だからだ。