TREMOLO [ANNEX]

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酒は飲んでも飲まれるな 間の話



 ガイアの嫌味に鍾離が返すのは苦笑いで、「心得た」と頷きが返ってくる。
 彼の返答に、もう二度とこのような事はなさそうだと安堵するガイアは、酔い潰れた風神様を連れて早く帰るよう進言する。先程から寝言が危う過ぎて他者が興味を惹かれないか気が気でないから。
 鍾離は、寝言で自分を呼ぶウェンティの姿に悲し気な表情を見せる。その眼差しには愛しみが溢れていて、目尻に残る涙の跡に心を痛めているのだろう。
 ガイアの言葉に甘え、謝罪と感謝をそこそこにウェンティを連れてディルックが手配してくれているだろう宿に移動しようとする鍾離。
 しかしそんな彼を止めるのは、先程から彼に怒りの眼差しを向けていた青年、ミカだった。
「待ってください!」
「! ミカっ!?」
「……先程から気になっていたが、君は?」
 眠るウェンティを抱き上げようとした動きを止める鍾離は、掛けられた声にゆっくりと其方に向き直った。
 視界の端に青褪めているガイアの姿が目に入り、ずっと感じていた敵意の原因をある程度絞ることができた。
(自国の神への信仰故か、それとも―――)
 前者なら謹んで怒りを受け止め詫びる心づもりをしている鍾離。だが、もしもそうでないと言うのなら―――怒りが信仰ではなく『敬愛』を越えたものだと言うのなら、受け入れるわけにはいかない。
 この眠りこけている愛おしい存在は、自身にとってかけがえのない存在なのだから。何人たりとも、奪わせない。いや、恋慕すら、許さない。
「僕はミカ・シュミット。西風騎士団の遊撃隊所属の測量士です」
「ご丁寧な紹介をありがとう。それで、ミカ殿は何用かな?」
 鍾離の表情は笑顔だがその内に秘められた怒りを察したガイアは思わず身を引き二人から距離を取る。
 察しが良すぎるぜ……。と鍾離の聡明さを称えながらも恨めしく思う彼は、助けを求めるよう義兄の姿を探す。だが、その姿は何処にもなく、こんな時に! と義兄までも恨めしく思うガイアだった。
 流石に力を使って『言い聞かせる』事などしないだろうが、僅かに残る岩神の執着心への疑念に胃が痛くなる。
 七神の一人を自分に止めることはできるだろうか……? と自問するも答えは分かりきっていた。
「帰られるのは、ウェンティさんが目覚めてからの方が良いのではないでしょうか?」
「それは何故かな?」
「ウェンティさんはっ! ……ウェンティさんはとても傷ついていました。お二人にどんな事情があろうと、あんな風に泣いてるウェンティさんを見た後では黙っていられません!ウェンティさんの意思を確認しないまま連れて帰られるのは、どうかと思います!!」
 若さと勢いとは恐ろしい。憤りに身を任せて立ち上がったミカは鍾離とウェンティの間に割って入ると、自分よりも長身な男性を見上げ睨みつけていた。
 ガイアは胃が縮み合う思いで息を呑んだ。止めろ、死ぬぞ。と心の中で後輩を止めるのだが、当然相手はそれに気づくことは無い。
「ウェンティさんが自分の意思で貴方のもとに帰ると言うまで、僕は―――」
「ミカ殿が匿う、とでも言いたいのかな?」
「っ―――」
 一瞬であたりを覆った殺気。それは勿論鍾離から発せられたもので、間近でそれを浴びたミカは恐怖のあまり言葉が喉奥に引っかかって出てこない感覚を味わった。
 戦いに身を置いていない民達にも異変は伝わったのか、それまで騒がしかった酒場がしんと静まり返った。
 何事かと不安を露わにするモンドの人々にガイアは『不味い』と慌てて明るい声で「酒が切れちまった!」とグラスを逆さにして最後の一滴を求める行動を取った。
 西風騎士団の騎兵隊長の気の抜けたその姿に周囲の人々は緊張が和らいだのだろう。気にしなくても大丈夫だと賑わいを取り戻してゆく。
 何とか誤魔化せたと安堵したガイアは、「ちょっと冷静になってくれよ、お二人さん」と色恋沙汰で酒場の雰囲気を悪くするなと注意を投げた。



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2023-11-03 公開



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