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「申し訳ない、ガイア殿」
先程のような禍々しい殺気は感じない。だが、鍾離が纏う怒気は消えてはいない。
ガイアは苦笑いを浮かべ、「こちらこそすみません。後輩がとんだ失礼を」と、ミカの首根っこをひっつかんでウェンティから引き離した。
ミカは「ガイア隊長!?」と出せるようになった声で非難を訴えてくるのだが、それを聞き入れてやれる状況じゃないと理解しているガイアは後輩の声を無視して己の背後に押しやった。
「ガイア殿。気遣いは感謝するが、彼は納得していないようだ。俺としてもきちんと話し合うべきだと思うのだが、どうだろうか?」
「いえいえ。鍾離先生の手を煩わせるわけにはいかないですよ。……ミカはこちらの吟遊詩人様が『何者か』理解していないんで」
不満顔を見せる後輩を振り返るガイアは苦笑いを濃くし、鍾離に訴える。恋慕している相手の正体が『風神バルバトス』だと知らない後輩を説得する役目は此方に任せてもらいたい。と。
ガイアの意味深な物言いに、ミカは「どういうことですか?」と先輩に食い下がる。勿論、彼から答えを得ることは叶わないのだが。
鍾離は眉間に皺を刻み、黙っている。
どうやらミカが相手を知らずに恋慕している事は間違いなさそうだ。
であれば、ガイアの言う通り身内で対処するべき事象であるという事は理解できた。
しかし、ミカと呼ばれる青年は自分が恋慕している相手の恋人が鍾離である事を理解している。理解した状態で、宣戦布告をしてきたのだ。
これが他の事柄であれば若いと笑って流すこともできただろう。
だが、番を奪わんとする相手にそんな悠長な対応ができる程鍾離のウェンティへの愛は軽くなかった。
散々迷惑をかけた手前、更に心労を増やすことは気が引けたが、致し方ない。
鍾離は、ガイアに彼の申し出は了承できないことを伝えようとした。だがしかし、彼の口からガイアの名が呼ばれることは無かった。
それは何故なら、再び賑わいを見せる酒場の喧騒を止ませる程勢いよく開いた扉の奥から大剣を片手に携えた遊撃小隊隊長のエウルアが鬼気迫る形相で姿を現したからだった。
「げっ、酔いが醒めて縄抜けしやがったな!?」
なんでこう面倒が立て続けに起こるんだ!
ガイアは思わず鍾離の前に立ち、同僚から彼を隠そうとする。だが、自身より大柄な男を隠せるわけもなく、エウルアは殺気立ったままの状態で一歩、また一歩と近づいてきた。
(俺への殺意だよな? そうだよな!?)
酔って暴れていたとはいえ、レディを椅子に縛り付けて放置した紳士の風上にも置けない男に対する怒り故の殺意だと願ってやまないガイア。
だが、同僚と視線が合わないことを考えると、その願いも虚しくエウルアの『標的』がガイアの背後にいる男だと分かってしまった。
(くそっ! ディルックの奴、マジで何処に行きやがった!?)
一人で店を守りながらブチ切れたエウルアを止めることは不可能だ。今此処に義兄がいて加勢してくれれば状況は全く違うと言うのに!
「ガイア殿、彼女からもそこはかとない怒りを感じるが、彼女もまたミカ殿と同じなのだろうか?」
背後から聞こえる声に、息が止まる。
恐ろしい程抑揚のない音で投げかけられた疑問は、エウルアもまたウェンティに恋慕しているのかと問うものだった。
何故そんな勘違いが生まれるのかと内心ツッコミを入れるガイア。だが、先程ミカの怒気の理由を知った男にとっては、ウェンティを守るために自分に怒りをぶつける者は全て番を奪いに来た略奪者に映るのだろう。