TREMOLO [ANNEX]

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酒は飲んでも飲まれるな 間の話



 エウルアが剣を治めたことに事態が収束したことを知った人々はいったい何だったんだと顔を見合わせている。
 当の本人は気にせずカウンターに腰かけていて、ディルックとガイアは頭を抱え脱力してしまう。
「ったく……、人騒がせな奴だな……」
「全くだ。……彼女の相手は君に任せるよ、ガイア」
「了解。ならこっちは任せたぜ、義兄さん」
 放っておけばまた騒ぎ出しかねない同僚のもとに掛けてゆくガイアを見送ったディルックは、呆然としているミカに目をやった。
「君はまだ彼を許せないかい?」
「! ディルック様……、……いえ、……正直、圧倒されました……」
「そうか。でも、今君が思っているよりもずっと彼はウェンティさんのことを大切にしているよ」
 言い聞かせるように言葉を紡げば、ミカは唇を噛みしめ俯いた。
 きっと肌で感じたのだろう。彼には何もかも敵わない。と。
 自隊の隊長が友の――ウェンティのために怒っていたことはミカにも分かった。だが、彼女が鍾離を傷つける気が微塵もなかったことは分からなかった。
 きっと彼女に自分の怒りを投影していたからだろうと己を分析するミカ。
 そして、そんなエウルアの怒りを受け止める鍾離の姿に、ウェンティに対する深い愛情を感じてしまった。
 鍾離はエウルアが自身を傷つけるつもりは無いと分かっていたと言った。だが、分かっていてもあのように自分に迫る剣を前に平静でいられるだろうか?
 もしかしたら彼は、その刃を受けても良いと思っていたのかもしれない。他ならぬ恋人のために。
「……ディルック様は、鍾離先生のことをよくご存じなんですね」
「そうだね。顔を合わせて話し込むような間柄ではないけれど、でも、彼が誰のために蒲公英酒を璃月に取り寄せているかは知っているからね」
「! ウェンティさんのため、ですね……」
「ああ。……君がウェンティさんを想い憤る気持ちは理解できる。だが、ウェンティさんが泣いていた理由を考えれば、彼らを引き留めた君の判断は間違いだ」
 酔い潰れる前までウェンティが口にしていた言葉の数々は、自身の恋人に焦がれるものばかり。彼は恋人の心変わりを嘆き悲しみ、悲愴に暮れていたのだ。
 本当にウェンティを思うのであれば、一刻も早く『それは全て勘違いだ』と教えてやるべきだろう。
 窘めるように言葉を続けるディルックに、ミカは唇を噛みしめながらも小さく頷いた。
「しょ、鍾離先生」
「……何かな、ミカ殿」
 眠りこけているウェンティを抱き上げた鍾離は、自分を呼ぶ青年に威圧を含んだ眼光を向ける。
 それに肩を震わせ縮こまるミカ。だが、身体を折り曲げるように頭を下げ「すみませんでした」と先の非礼を謝罪した。
「部外者が出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ありませんっ」
「いや、我が伴侶を気遣ってくれて感謝する。だが、コレに関しては俺も気が長い方ではないため、今後挑発は遠慮いただきたい」
「は、はいっ……」
 愛おし気に眠るウェンティの髪に口付けを落とす鍾離からの牽制に、ミカは視線を逸らすように頷き、俯いた。
 我ながら大人げない。
 そんなことを思いながらも、番に恋慕する他の雄を前にすればどうにも抑えが聞かなかった。
 鍾離はミカから視線を外し、ディルックへと向き直る。
「騒がせてしまって申し訳ない。俺達は長居しない方が良いだろうから帰らせてもらう」
「いいえ、此方こそ騎士団員がご無礼を。此方の宿を手配しましたので、受付で僕の名前を言っていただければと思います」
「ありがとう。気遣いに感謝する」
 宿の名が掛かれた小さな紙を受け取った鍾離は、眠りながらも自分に擦り寄ってくるウェンティを抱いて酒場を後にした。



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2023-11-07 公開



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