TREMOLO [ANNEX]

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愛しき日々

18



「モラクス……」
「そんな頼りない声を出すな。……離せなくなるだろう?」
 湯浴みの準備をしに行くだけだ。
 そう言って額に口づけを落とす鍾離。ウェンティはそれに小さく頷くも、翡翠は少し寂しげに揺れていた。
(ああ、ダメだ。かつて岩の魔神と呼ばれた男も、愛する者の前では無力な存在に成り下がってしまうということか……)
 契約を重んじてきた岩神モラクス。
 その生き様には一片の揺らぎもなく、それを守るためならば非情な決断をしたことも数えきれない。
 たとえ誰が傷付こうとも、誰の命が奪われることになろうとも、契約を絶対と掲げ、己の信念を貫き通してきた。
 しかし、今の自分はどうだろう?
 己を律する為に掲げた誓いすら、守れずにいる。
 愛しい存在を大切にすると誓いを再掲したにも拘わらず、既に目の前で自分を見つめるウェンティの全てを喰らい尽くしたいと衝動が込み上がってきている。
 この衝動に身を任せれば、それはそれは素晴らしいひと時を得ることができる。
 繰り返し愛し合ってきたからこそ、それを思い描くことは実に容易だ。
 だが、衝動を抑え付ける理性はかつての自分の生き様を思い出せと声を張り上げている。
 契約は絶対であり、自分を律するための導。よりよい未来のために、我慢も犠牲も厭わなかったあの頃の自分は何処へ行ってしまった。
 それは鍾離に問いかけてくる。契約を破り、一時の快楽のために大切な存在を壊すことになって良いのか。と。
(否。俺にとってバルバトス以上に大切な存在は在りはしない。今までも、これからも)
 鍾離は作った拳に力を込め、記憶と繋がる快楽を遠ざけた。
「直ぐ戻る」
「ん……、わかった……」
 悲し気に伏せられる瞳。
 鍾離はせめてもの慰めにとウェンティの額に口づけを落とし、自身の上着を脱ぐと恋人の体躯に掛けてやった。
 愛された余韻の残る体躯を隠す上着を抱きしめる恋人の姿には正直後ろ髪が惹かれる。
 だが、自分の無体を受け入れ許してくれたウェンティを存分に労うためにも湯浴みの準備しなければならないと己を律して鍾離はキッチンを後にした。
(風呂場で手を出さぬよう気を付けなければな……)
 リビングからバスルームへと足を進める鍾離は、今は堪えることができたが湯浴みの際にそれができるか不安になる。密着して欲情しない自信は皆無だったからだ。
 共に湯浴みをすれば、どんな結果が待っているかは想像に容易い。だが、一人で入らせるには今のウェンティは危なっかしいから困った。
 何より奉仕すると申し出た手前、湯浴みは一人でしろと放り出すのもまた契約を違える事になる。
 鍾離は浴槽に栓をして少し熱めの湯を落とすと、意志を強く持つより他にないと己に気合いを入れた。



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2024-01-02 公開



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