「泣くほど岩の魔神が恋しいのならば、少しは譲歩しようとは思わないのか?」
「! トワリン?」
「君が友を想いその姿を象っている事は我も知っている。だが、その想いはその姿を象り続けなければ保てないほど脆弱なモノではないだろう?」
聞き分けのない幼子を諭すように優しい口調で尋ねてくるトワリンに、ボクは反論の言葉を失ってしまう。
かけがえのない存在を忘れないために選んだ容姿は、己の唯一―――モラクスを失ってもなお固執するべきものなのだろうか? と。
トワリンが言ったように、あの子を想う気持ちはこの姿がなければ保てないわけでは決してない。
それなのに、何故ボクはこの姿に固執してしまうのだろうか……。
「……そもそも、岩の魔神は君に『その姿を変えろ』と要求したのか?」
「え……?」
自分自身の気持ちに目を向けていたボクに投げかけられる新たな問いかけ。
その声にいつの間にか下げていた視線をあげトワリンを見れば、寝入ろうとする体勢のまま先程明けた片目を閉じて、「今更そんな要求はしないはずだ」と息を吐いた。
トワリンが何故そんな風に思うのか理解できないボクは、ただ困惑して友達の名を呼ぶことしかできない。
何か知っているなら、教えてよ。
そう縋るボクに、トワリンは今度は両目をぱちりと開けてボクをじっと見つめてきた。
「龍族は総じて己の唯一―――番に対する独占欲が強固だ。他の種族では想像もできないほどに、我らにとって『番』は絶対的であり重要な存在だ」
「う、うん……」
「我の言葉を理解しているか? 岩の魔神にとって、君がそうだと言っているんだ」
「それはわかってるよ……」
狂おしいほどの情熱がなければ、龍族は番を作らないと言うトワリン。
事実自分もそこまでの存在には出会っていないと言い、たとえ出会えたとしてもその存在を自分の『番』にしようと思うかどうかは分からないと言葉が続いた。
ボクは当然、何故? を尋ねた。
トワリンが見せるのは『分からないのか?』と言いたげな眼差しだったが、龍族にしか理解できない事かと独り言を漏らした後説明してくれた。
「ただの口約束ではなく、我らの力を預けた存在を『番』と呼ぶ。つまり、龍族にとって『番』は命そのものだ。だからこそ、どれほど情熱を相手に持とうとも相手がそれに堪えられない場合は『番』になる選択肢は最初から存在しない」
「ちょ、ちょっと待って! 『力を預ける』って、何!?」
「言葉通りだ。我らは『番』に全てを捧げる証として逆鱗を預ける」
平然と告げられた事実はボクに衝撃を与える。以前逆鱗と呼ばれる鱗には己の力が凝縮されていると―――まさに『力の源』だと教えられていたからだ。
(え……? まさかモラクス、ボクに逆鱗を渡すつもりなの!?)
驚きのあまり絶句していれば、トワリンは考えていることを見越したように「よほどの覚悟がなければ『番』契約など申し出ない」とボクを見つめてきた。
「岩の魔神にとって君は『自分の全てを預けられる』と判断した相手だ。そんな相手に、何故今更容姿がどうのと要求すると思う? そんな要求があれば、もっと前の段階で済ますはずだ」
だからと言葉をつづけたトワリンはもう一度ボクに告げた。
「岩の魔神とちゃんと話し合うべきだ」
と。