「うぅ……、わかったよぉ……」
訴えるようにじっと見つめられれば、折れるよりほかにない。
ボクは項垂れ、ちゃんとモラクスと話すとトワリンと約束した。
今さっきトワリンが言った話が本当なら、モラクスがボクに望んでいるのは『繁殖相手』ではないかもしれない。
そんな希望を抱くももう一人のボクが、もしもトワリンの話が間違っていたら? と水を差してくる。
一人でまた悶々と考えだしてしまうボクに、ぶわっとトワリンの吐息がかかった。
いい加減にしてくれと言わんばかりの視線とぶつかれば、だってぇ……とその足にしがみついてしまう。
「だってだって、あれからもう二週間も経ってるんだよ? 今更『ちゃんと話がしたい』なんて、言えないよ」
「君は本当にこと岩の魔神に関しては嘘が下手だな……。気にしているのはそこではないんだろう?」
「うぐっ……、お願いだから意地悪しないでよ!」
「意地悪ではなく、我は我の身を案じているだけだ。龍族の独占欲は先も伝えただろう?」
頼むから離れてくれ。
そう言って邪険にする友達に「酷い!」と余計にしがみつこうとするボクだけど、次の瞬間、何かに首根っこをひっつかまれて後ろに凄い力で引っ張られた。
あまりに突然の出来事に、何が起こっているのか分からず目を白黒させるボク。
でもその視界に入って来た姿に驚きは限界を突破して、絶句してしまった。
「我が伴侶が世話になった。礼を言う、東風の龍」
「『礼』と言うのなら、その殺気を仕舞ってからにしたらどうだ? 岩の魔神よ」
「すまない。漸く風が止んだと思い伴侶を迎えに訪れたら、他の龍にしがみついてる姿に頭に血が上ってしまった」
「何度も言うが、我とバルバトスは友だ。それ以上でもそれ以下でもない。いい加減その石頭に刻んでおいてくれないか?」
自分でできぬと言うのなら、我が手を貸すぞ?
そう言って鋭い爪をちらつかせるトワリンに、ボクの目の前に立つモラクスは「これに『番』を申し込んだことは聞いているはずだ」と自分の嫉妬は当然の反応だと言い返した。
呆れ顔のトワリンは、モラクスではなくボクを見る。
「君は暴風を吹かせて気付いていなかっただろうが、岩の魔神は二週間前からずっと我が風の障壁の前で君が落ち着くのを待っていたんだぞ」
「え!? 嘘!?」
「何故嘘だと思う? 『番』を申し込んだ相手が怒り狂って去った後にその場に呆けている程岩の魔神は愚鈍なのか?」
「! そんなわけないでしょ!! トワリンはどうしてそんな意地悪を―――」
モラクスを悪く言わないでよ!!
そう食って掛かるボクを止めるのは貶されたモラクス本人で、ボクの反論を片腕一つで制止すると彼はトワリンに「連れ帰る」と短い言葉で己の意思を伝えた。
「好きにしろ。ただし、二度目は無いとだけ忠告しておこう」
「二度目は来ない。安心しろ」
「その言葉、嘘にするなよ? 次同じことがあれば、『番』を失うと覚悟するんだな」
その瞬間、殺気が周囲を包み込む。モラクスのそれだと気付いたボクは、慌てて彼の上着を引っ張り、正気に戻るよう訴えた。