「……心得た」
一瞬、ボクを振り返ったモラクスは再びトワリンに視線を戻すと押し殺したような声を出す。
それがあまりにも不服そうな音だったから、思わず心の中で(全然心得てないよ!?)って突っ込んでしまった。
勿論、トワリンにだってそれは伝わっている。
大切なボクの友達は呆れたような吐息でボク達に風を浴びせ、今度こそ本当に寝入ると言わんばかりに目を閉じた。
「顔はそうとは言っていないが、まぁいいだろう。……我が友を裏切ってくれるなよ、岩の魔神」
「要らぬ心配だ」
完全に眠る体勢を整えるトワリン。これ以上の長居は無用だとモラクスはボクの手を掴み「帰るぞ」と返事を待たず歩き出した。
手を引かれるがままモラクスの後を追いかけるボクは、建物の外にでて自分の乱心っぷりを目の当たりにして失笑が漏れた。
トワリンが風の障壁で防いでいなければ、愛すべきモンドの美しい風景は完全に損なわれてしまっていただろう。
改めて友人に感謝を覚えるボクは、今度お詫びの林檎とお酒を持って詩を唄いに来ようと一人頷いた。
風魔廃墟を後にしてモンドと璃月の国境まであと少しと言うところで、無言のままボクの手を引き歩いていたモラクスが立ち止まった。
一体どうしたのかと思いながらも此方を振り返る素振りを見せないモラクスにボクが覚えるのは不安だ。
あの時、モラクスがボクを待ってくれていたことに心は舞い上がったけど、冷静になった今は『迎え』を手放しで喜ぶことができなかった。
だって、問題は何も解決していないのだから。
トワリンから聞かされた話は、どれもトワリンの想像でしかない。モラクスが本当は何を考えているか知っているのは、他ならぬモラクスだけなんだから。
(ねぇモラクス、君はどうしてボクを『番』にしたいの?)
向けられたままの背中から、繋がれた手に視線を落とす。
ボクがその手に力を込めたのは、無意識のことだった。
「……すまない」
ボクの手を包み込んでしまう大きな手も大好きだと想いを馳せていれば、落とされた謝罪の言葉。
顔をあげれば相変わらず広い背中しか見えず、胸が苦しくなった
「それは何に対する謝罪?」
「俺の一方的な願望をお前にぶつけた」
「『一方的な願望』って?」
「……お前と番いたいという願いだ」
押し殺したような声は、まるで苦しみを吐き出しているかのように悲痛な音を奏でている。
向けられたままの背中に、今モラクスがどんな表情をしているかは分からない。
分からないけど、何故か泣いているような気がしてボクは繋いでいた手を放した。
ボクは一歩、モラクスとの距離を詰め、その背中をぎゅっと抱きしめた。