TREMOLO [ANNEX]

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婚姻の儀

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「花嫁への祝福か?」
「そ! 幸せな結婚を願うおまじないだよ!」
 青は幸せの象徴なんだと笑うウェンティに、そういえば先のグラスも青だったと笑みを返す鍾離。彼もカップを手に取り深みのある青の美しさを愛でてから口をつけた。こくりと一口飲めば璃月の茶とは違いフルーツのような甘い香りが鼻腔を抜ける。その香りは恋人の好物である林檎のものだが、味覚としてはそれを感じない。何度飲んでも紅茶とは不思議な飲み物だ。
「お口に合いませんか?」
「いや、果実の――林檎の香りがするなと思って」
「乾燥させた果実で香り付けしたフレイバーティーです。林檎はかつてモンドを統治していた神が好んで口にしていた果実なので結婚式など祝い事の際に祝福の意味を込めて振舞われるんですよ」
 笑顔で紅茶の説明をするディルックはちらりと視線をウェンティに向け、それに気づいているだろうウェンティは「やっぱりモンドのお酒は最高だぁ!」とわざと大きな声で二人の会話など聞こえていないとアピールしてみせる。彼は鍾離の膝の上に座っているため聞こえていないなど絶対にありえないのだが。
「モンドの人々はいまだ風神を敬愛しているのだな」
「そうですね。たとえ統治されていた期間が短くとも、この国に『自由』を与えてくださったのは他でもなく彼なので。私を含めモンドの民はそのほとんどが彼を信仰していますよ」
「なるほど。此処まで民に愛されているのであれば、風神もさぞ喜んでいることだろうな」
「だと良いんですが」
「もー!! 二人とも煩い!! 折角のお酒が不味くなる!!」
 目の前でしらじらしい会話が続けられれば、聞こえない振りをし続けるのも限界がある。ウェンティは意地の悪いバーテンダーとそれに乗って揶揄ってくる恋人を交互に睨んだ。二人から返ってくるのは笑い声で、全然威圧できていないことにまた腹が立ったのかウェンティはディルックの背後で仕事に戻ろうとしているガイアに絡みだす。
「ねぇ、君の義兄さんは随分いい性格になったね!?」
「いやぁ、俺を巻き込まないでくれないか?」
「義兄の不始末は義弟が片をつけてくれないと困る!」
 何とかしろと訴えてくるウェンティ。逃げそびれたガイアは空笑いを浮かべて自分に絡む客の背後に目をやった。
 鍾離は随分と楽し気に笑っている。だが、彼が恋人を溺愛していることは隣国からはるばる伝わるぐらい有名だ。それ故、自分にばかり絡まれては面倒事に巻き込まれる予感しかしなかった。
「……おい、ディルック。程々にしとけよ。この吟遊詩人様に懐かれると誰かさんの怒りを買いかねないだろうが」
「ああ。そういえば君達は仲が良かったね。昔から」
「ただの呑み仲間なだけだろうが。怖い顔するなよ」
 義兄に仲睦まじい恋人の邪魔をするなと暗に注意を促すガイア。だが、何故かディルックは満面の笑みで圧をかけてきた。
 確かにウェンティがまだモンドに留まっていた頃は酒場でよく顔を合わせて共に酒を楽しんでいたがそれ以外の交流は無かったと弁解するガイアに、「そんな! 酷い! あんなに楽しく呑んでたじゃない!」と煽る言葉をかけてくるのはウェンティその人だ。
 ボクのことは遊びだったんだね!? と口するウェンティに、ガイアはクソ風神がと心の中で悪態を吐く。
「頼むから誤解を招くことを言わないでくれ―――って、嗚呼ほら見ろ。俺の命の危機じゃないか!」
 あからさまな噓泣きでカウンターに突っ伏すウェンティに誤解を解けと詰め寄るも、前から隣から殺気交じりの圧を感じたガイアは「勘弁してくれ!」と自分こそ泣きたいと頭を抱えた。



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2023-08-18 公開



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