初めて聞いた鍾離の想いにウェンティは目を見開いて恋人を凝視した。
恋仲になってそれなりの月日が経っているが、まさかそんな風に思っているとは露とも思わなかった。
鍾離はいつだってウェンティを気に掛けていた。それこそ、恋仲になる以前から。
恋仲になるまでは、口煩いじいさんだと思っていた。
恋仲になった今は、べたべたに甘やかしてくる心配性な恋人だと思っている。
だが、ウェンティが思う以上に鍾離は彼のことを想っているようだ。
本当は囲って隠して縛り付けてしまいたいけれど、誰よりも何よりも大切だからこそ『自由』であって欲しい。ありのままでいて欲しい。たとえ永劫続く生の最中に自身の元から飛び立つことになったとしても、それが恋人の望むことならば引き留めることはしたくない。唯一を失うことでその先自分がどうなろうとも。
そんな心の声が、ウェンティには聞こえた気がした。
鍾離はいつものように穏やかに微笑み、「味わって呑むと約束できるのなら、もう一杯吞んでもいいぞ」と、話題の終わりを告げてきた。
ウェンティは返す言葉が見つからず、視線を下げて「おかわり」と呟き彼にもたれかかった。
(全部、ボクのため……)
目を閉じると酒場の喧騒が一層大きくなる気がする。
それでも耳を傾けるのは恋人の命を刻むメロディーで、聞こえているはずの他の音が消えてしまうのがおかしかった。
ウェンティは身に余るほど大切にしてくれる恋人が語った先程の本音に想いを馳せる。
モンドは自由の国。酒と詩を愛する風土は、時に他国からは奔放にも映るだろう。
結婚式を挙げ『永遠の愛』を誓った者達でも、時が立ち互いの想いが変われば新たな誓いを立てたりもする。確かにそれは婚姻を『契約』と重んじる璃月では信じられないことなのかもしれない。
鍾離は、『契約』を結ぶ気が無いと言った。だがしかし、それは裏を返せばウェンティとの『婚姻』について以前から考えていたということだ。
結婚するなんて考えたこともなかったウェンティは、いったいいつからそんなことを考えていたのかと恋人の動向を思い返す。
思い返す恋人は、いつもと変わらない。甘くて優しくて、でも偶に頑固で口煩くて、それでいてありったけの愛を注いでくれる。喧嘩して憎まれ口を叩いても、悪態を吐いても、最後は必ず許してくれる大切な人。
(ボクが『自由』を愛しているから、だからモラクスは『本心』を押し殺して笑ってくれてたんだ。今までずっと)
トクトクと鼓動するのは恋人の心臓か。それとも、自身の心臓か。
甘い痛みがじんわりと胸に広がり、少し苦しいと感じるウェンティ。
おもむろに顔を上げれば、変わらない笑い顔が目の前に。
「流石目敏いな。ほら、望みの酒が来たぞ」
「ん。ありがと」
差し出されるグラスを手に取れば、「ゆっくり呑むんだぞ」と注意が飛んでくる。
それに分かっていると返しながらも、ウェンティが考えるのは大切な人に笑っていて欲しいという願いだった。