TREMOLO [ANNEX]

ゆらゆらぎが運営する同人系個人サイト

婚姻の儀

16



「珍しいな。正直、お前が酔い潰れずにいるとは思わなかった」
「呑み過ぎないよう口出ししてきたのはそっちでしょ」
「そうだが、大人しく言うことを聞く性質でもないだろう?」
「あはは。そうだね」
 宿までおぶって帰るつもりだったと苦笑を絶やさない鍾離の手を引くのは、ほろ酔い気味のウェンティ。
 二人は先程エンジェルズシェアを後にし、星が瞬く空の下、モンドの城下を笑い声を響かせながら歩いていた。
 時折じゃれるように寄り添ってくるウェンティは鍾離が頬を撫でようと手を伸ばす度、それから逃げるように身を翻し先へと駆けてゆく。早く早くと急かす少年に、鍾離は酔っ払いの行動に意味を求めても仕方がないと諦め、大人しくその後を追いかける。
 楽しそうにモンドの城下を駆けるウェンティの足取りはしっかりしている。だが、酔いのためか身体はふわふわと揺れていて、気を抜けば風に乗って飛んで行ってしまいそうだった。鍾離はウェンティの名を呼び、手を伸ばす。危なっかしいからせめて手を繋いでいてくれ。と。
 ウェンティは鍾離の言葉に「うーん……」と考える仕草を見せる。だが、一考した後恋人の言葉に拒否を示し、空を仰ぐように両手を広げて見せた。
「そんなに心配なら、掴まえてよ」
「掴まえようにも逃げているのはお前だろう」
「別に逃げてないよ?」
 呆れ口調で酔っ払いを窘めるも、返ってくるのは笑い声。
 言っても聞く耳を持たない恋人に焦れた鍾離は、「お前がそういうのなら」と大地を蹴る。
 先程までの街並みを楽しむゆったりとした足取りとは反対に、あっという間に詰められる距離。ウェンティは本気で掴まえに来た恋人に笑い声を響かせて風に乗って飛び立とうとする。
 逃げるが先か、掴まえるが先か。早かったのは鍾離だった。
 ふわりと浮いたウェンティの体躯は飛び立つ直前に恋人の腕に引き寄せられ、その腕の中に閉じ込められる。胸に埋められた顔を呼吸のために上げれば、困ったような表情を見せる鍾離と目が合った。
「掴まっちゃった」
「不用意に力を使うな」
「はーい」
「まぁ、本気で逃げる気は無かったようだが」
 苦言に気の抜けた返事をすると、額を弾かれる。俺を困らせて楽しいか? と苦笑いを見せる鍾離にウェンティは肯定の言葉を返して広い背中に手を回してぎゅっと抱き着いた。
「……ねぇ、宿に戻る前に行きたいところがあるんだけど、付き合ってくれる?」
「当たり前だろう? 一人で行くと言われても付いて行くぞ」
 酔っ払いを一人夜の街に放つわけにはいかない。
 そう意地悪な言葉を続ける鍾離だが、それが本心ではないことは抱きしめる腕が物語っていた。
(心配しなくてもボクは何処にも行かないよ)
 抱き締める腕は力強く、それでいて優しい。
 ウェンティは鍾離に気付かれないよう彼の胸に顔を埋めて笑みを浮かべると、強くなる想いに早く伝えたいと気持ちが逸るのを感じた。
「それで、何処に行きたいんだ?」
「大聖堂前の風神像」
「分かった。掴まってろ」
 目的地が分かれば後は向かうだけ。鍾離はウェンティを抱き上げ、街灯に照らされた街並みを通り過ぎた。



 | 


2023-08-23 公開



Page Top