TREMOLO [ANNEX]

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婚姻の儀



「お二人ともお変わりないようで安心しました」
「! ありがとう。ボク達は毎日楽しく過ごしてるよ。ガイアは? ディルックと仲良くしてる?」
「おかげさまで私も毎日楽しく過ごしてますよ。義兄さん―――オーナーには日々扱かれてますけど」
 つまみだと言いながらナッツが盛られた皿と手拭きを出してるガイア。その姿は様になっていて、昔からバーテンダーだったのでは? と錯覚するほどだ。
 美しい所作を褒め称えれば、ガイアは笑顔でそれを享受する。昔なら照れ隠しでからかい口調の軽口が返されただろうに、なんという変化だろう。
「二人が仲良く過ごしているようで安心したよ」
「その節はご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
「ボクが勝手に気にしていただけ。でも、君のその喋り方はあまり好ましくない『変化』だから気にして欲しい!」
 できれば以前のような砕けた口調で話して欲しい!
 そう言って身を乗り出せば、腰に回されていた鍾離の腕によってそれを窘められてしまった。
「おい、無茶を言うな。彼は仕事で立っているんだ」
「そうだけどさ。昔は肩を並べて呑んだ仲間によそよそしくされるとか、悲しいよ」
 昔のように一緒にお酒を呑んで楽しみたいと不満を露わにするウェンティに鍾離は諦めるよう言ってくる。ガイアも「仕事中なので」と苦笑を漏らしているため、ウェンティの願いは叶わないようだ。
「お客様の相手をするのもバーテンダーの仕事だよ、ガイア」
「! ディルックっ、おま、気配を消して背後に立つなって何回も言ってるだろうがっ」
「ガイア。……お待たせしました、蒲公英酒とアップルサイダーになります」
 背後に立っていた義兄に驚き飛び退くガイアを他所に、驚かせた当の本人は何処吹く風だ。
 落ち着いた物腰で手にしたグラスをコースターに乗せる所作は洗練されており、彼目的で通う女性が多いというのも頷ける。鍾離は礼を述べて自身へと差し出されたグラスに手を伸ばし、同じくグラスを手にしたウェンティと乾杯して口をつけた。
 喉を通る爽やかな風味は昔呑んだそれと変わらない。美味いと思わず零せば、自分を見上げる視線に気が付いた。
「モンドのお酒はテイワット一だからね!」
「それは知っている。だが、以前よりもずっと味が洗練された気がする」
「え!? 本当!? 一口! 一口頂戴!!」
 モンドの酒が美味いのは当然のこと。それなのに不動の地位を築きながらもなおも改良に余念がないとは職人とは実に恐れ入る。
 そう感嘆する鍾離の言葉に目を輝かせるのはお酒大好きウェンティその人で、アップルサイダーが注がれたグラスをカウンターに戻すと鍾離が持っているグラスを横取りしようと手を伸ばしてきた。鍾離はその姿に笑い、分かった分かったと必死な様子の恋人にグラスを渡してやった。
「うぅーん! おいしぃ!! 爽やかさが増してるのに口当たりは優しくて何杯でも吞めちゃうよ!」
「約束を守れないのなら、すぐ宿に連れて帰るぞ」
「分かってますぅ! ちゃんとゆっくり味わって呑むから大丈夫! ってことで、おかわり!!」
 自分はまだ一口しか呑んでいなかったはずなのに、恋人の手には空になったグラスが。鍾離は言動が一致しないウェンティに呆れて頭を抱え、自分の分を呑み終えてからだと注文をキャンセルしてしまう。
「先生のケチ!」
「ケチで結構。ほら、リンゴ好きのお前にはたとえアルコールが無くともそれは好物だろう?」
「それはそうだけど……。って、ディルックもガイアもなんで笑ってるのかなぁ!?」
 窘められて宥められて不本意ながらもアップルサイダーに再び口をつけるウェンティの視界には肩を震わせているディルックとガイアの姿が入り、明らかに先のやり取りを笑っているのだと分かった。
 モラクスのせいだ! と視線だけで恋人に不満を訴えれば、彼は素知らぬふりをしてつまみのナッツを一つ口に放り込んでいた。



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2023-08-14 公開



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