TREMOLO [ANNEX]

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二五〇〇年越しの夜



 ともあれ、取り乱したバルバトスに許しを乞い、許す条件として提示されたのが『バルバトスが良いと言うまでそういうことは一切しない』という契約だった。
 愛しい存在を自身の短慮な行いで傷つけたことは完全にモラクスの落ち度だ。バルバトスを失わずに済むのなら、二つ返事で契約に応じるに決まっている。
 そうして結ばれた『約束』を、モラクスは律儀に守り続けた。
 しかしそれでもどうしても欲は覚えてしまい、傍に居ればまた同じことを繰り返す。
 事実、バルバトスは気付いていなかったが、何度か危うかった。
 このままでは契約を破り、大切な存在を失ってしまう。
 恐れたモラクスは、自身の欲を自制できるまでなるべくバルバトスと距離を置いた。
 そしてその間に様々な事が起こりバルバトスは神の座を去り、璃月を訪れることは無くなった。
 逢いに行こうとは何度も思った。だが、逢えば最後、抑え続けた欲のまま恋人に無体を強いることは明らかだった。
 だから、モラクスは待ち続けた。バルバトスが自分の元を訪れることを。
 やがて災厄と呼ばれるカーンルイアとの戦いが始まり、その最中に負った傷が原因で永い眠りについたバルバトス。目覚めを知るまでのあの五〇〇年は、生きた心地がしなかった。
 そして目覚めてからもバルバトスが尋ねてくることは無く、モラクスは鍾離と姿を変え、バルバトスはウェンティという吟遊詩人として歩みを進めていた。
 それでも恋人を―――ウェンティを信じ、待ち続けていたと言う鍾離は、自分を見つめる翡翠に悲しげな笑みを見せた。
「た、確かにそんなことはあったけどっ! でも、でもそれから何年経ってるか分かってる? 二〇〇〇年は優に超えてるからね?」
 ウェンティが覚えるのは激しい罪悪感と、喜びだった。
 声を震わせながらも問いかければ、鍾離は微笑を浮かべ頷いた。「ああ、分かっている」と。
「まさか俺も此処まで長く『待て』が続くとは思ってもいなかったが、だが、まさか別れていたと思われていたとは……」
「だ、だってぇ……」
 風が悲しいと泣いている。鍾離の感情に触れたウェンティは、小さな声で「ごめん」と謝った。
 俯き反省を示すのだが、やっぱり喜びも共に覚えてしまって口元がむずむずと緩んでしまうのはどうしようもない。
「それでお前はどうなんだ?」
「何が?」
 悲しみに満ちていた風が、変わる。
 まるで烈火のごとく激しい感情に塗り替わるそれに思わず顔を挙げれば、穏やかな『鍾離先生』ではなく、かつての『岩神モラクス』然とした威圧を纏った鍾離と目が合った。
「俺と別れていたつもりだったのだろう? つまり、俺に『待て』を言い渡しておいて自分は余所で恋人を作っていた、と、そういう事か?」
 もしそうだと言うのなら、覚悟してもらわねばならないな。
 激情を知らせる風は、言うなれば憤怒。彼から僅かに漏れ出す岩元素にウェンティは慌ててストップをかけた。
「ちょ、顔! 顔怖いよ!」
「当たり前だろうが。俺は貞節を守っていたのに、お前は勝手な思い込みで他の誰かと―――」
「わ! ちょ、待って待って! ストップ! 鍾離先生ストップ!!」
 放出される岩元素の量が更に増し、このままでは大地に影響を及ぼしてしまう。
 ウェンティは「お願いだから落ち着いて!」と身を乗り出して鍾離の手を握りしめた。今君が想像している事は一切無いから! と。
「そんな相手、居るわけ無いでしょ!?」
「それはこの場を納めるための嘘か? それとも―――」
「嘘なんて吐くわけないでしょ!! 大体、失礼な事言わないでよ! 確かに勘違いしていたボクが悪いけど、でも、ボクが好きでもない相手とそういう事するって思ってるってことだよね?」
「だから、俺の知らない他者を好きになったんだろう?」
 もしまだそいつが生きていると言うのなら、所在を教えろ。今すぐ息の根を止めてくる。
 そう凄んでくる鍾離に、居ない相手の所在をどうやって教えろと言うのだと押し問答は続いた。



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2024-02-16 公開



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