TREMOLO [ANNEX]

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二五〇〇年越しの夜



「君以外の誰かを好きになるわけないでしょ!? ずっとずっと君の事が忘れられなかったんだから!!」
 そんなことを言うのなら、他の人のことを気にする隙間もない程ボクの心に居座らないでよ!
 鍾離の怒りに任せた言葉の数々に、「勝手なこと言わないで!」と怒りを返すウェンティ。自分がどれほど苦しんだか。どれほど君を恋しいと思っていたか。何も知らないくせに。と。
「ほう……、別れたと勘違いしておきながら、それでも俺だけだったと?」
「そうだよ! 悪い!? 大体、ボクは君がボクのことを好きになるより先に君の事が好きだったんだから忘れられなくて当然でしょ!!」
 鍾離の口から出る『嘘を吐くな』と言いたげな物言いに怒りは増す。想いを軽んじられた気がしてどうにも腹が立ったのだ。
「バカを言うな。俺の方が先に決まっているだろうが。お前を一目見た時から伴侶にすると決めていたんだからな」
「ボクは! ボクは君に会う前から好きだった!!」
「『出会う前から』? ムキになって虚言を吐くな」
「嘘じゃないし! 君の名前は昔から知ってたんだからね!! 隣の国にはとても優しい神様がいるって、だからボクはその頃からずっと君のことが―――って! 誘導尋問なんて酷いじゃないか!!」
 何を言わせるんだと怒るウェンティだが、どう見ても完全に自爆だ。
 怒りと羞恥にわなわなと身体を震わせていれば、鍾離は呆れたように息を吐いてみせた。勝手に暴露しておいて俺に罪を擦り付けるな。と。
 尤もな言い分に、ぐうの音も出ない。
 ただ黙って鍾離を睨みつけていれば、ふっと彼の表情が和らいだ。
 笑みを浮かべているようなその表情に覚えた胸の高鳴りの意味は、まだ分からないという事にしておこう。
「しかし、そうか。心変わりしたと思われていたことは実に腹立たしいが、お前の気持ちが改めて分かって良い気分だ」
「ボクは最悪な気分だよ!」
「そう言うな。それで、俺は別れたつもりは無いのだが、その認識は改めなくて良いな?」
 質問する気のない質問に何の意味があるのだろう。答えなど、分かっているだろうに。
 鍾離の余裕が腹立たしくて、悪あがきだと分かりつつ「知らない!」とそっぽを向くウェンティ。すると、優しい音で名を呼ばれてしまった。
「あまり虐めてくれるな。行儀よく『待て』が解かれることを待っていた俺に少しは労いの言葉をくれてもいいだろう?」
 その声色がそこはかとなく甘いと感じるのは気のせいだろうか。先程までの激情とは違う、柔らかく心地よい風のせいで全身がむずむずしてしまう。
 それでも素直になるにはまだ意地が残ってしまっているウェンティは、鍾離から顔を背けたままだった。
「バカじゃないの。本当、君はバカだ」
「ああ。お前の言う通りだ。俺はお前に関することで賢く在れた試しがない」
 風も、声も、視線すらも甘い。突然こんな感情をぶつけて来るなんて、反則だ。
 ずっとずっと恋しいと思っていた相手から『想い』を受け取って、意地なんて貫けるわけがないのだから。
「でも、……でも、好き……。ずっとずっと、君だけが好きだよ」
 もう良いよ。と自分を許してあげれば、待ち望んでいたとばかりに唇から零れた自らの『想い』。
 久しく紡ぐことができずにいたそれは、ウェンティの目頭を熱くした。
 ぐすっと鼻を啜れば、涙ぐんでしまっていることを隠すことはできない。それでも良いかと思うのは自分を包む優しい風のおかげだ。
「ねぇ、ちょっと。人に言わせといて黙らないでよっ」
 告白への返事ぐらいくれてもいいんじゃない?
 感極まって泣かないようにと涙目で悪態を吐けば、鍾離は何も言わず立ち上がるとウェンティの前に歩み寄り、その手を掴むや否や「帰るぞ」と歩き出した。
「え? ちょ、モラク――、鍾離先生?」
 驚き涙は引っ込んだ。
 思わず真名を口にしそうになったのを堪えて彼を呼ぶも、鍾離は足を止めることも振り返ることもなかった。
 だが、力強く握られた手からは彼の想いが流れ込んできているような気がした。



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2024-02-17 公開



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