「お前のそういうところが俺をこうさせているといい加減学習しろ」
「ご、ごめんってば」
鋭い眼光で睨まれれば、恐怖に身体が竦んでしまうのは当然だろう。
ウェンティは思わず後ずさり、安全な距離を確保しようとしてしまう。
だが、ウェンティの動きよりも早く鍾離の手が伸びてきて、距離は開くどころか縮まってしまった。
これではいざという時逃げれない。
そもそも鍾離を怒らせなければ良いだけの話だが、ウェンティにはそれが何よりも難しいから仕方のない反応だった。
「……本当に帰るのか?」
難しい顔をしながらも尋ねてくる悪友の心は未だ分からない。
だが、共に酒を呑み交わしたいと思ってくれている事だけは分かるから、ウェンティは無言で首を横に振った。
その反応が正しかったかどうかは分からないが、それでも腕を掴んでいる鍾離の手からは力が抜けたから、間違ってはいないようだ。
再び彼を怒らせることは無かったと安堵して顔を挙げれば、神妙な面持ちの鍾離と目が合った。
(だから、なんでそんな顔するのかなぁ。このじいさんは)
嫌われているわけではないかもしれない。そう期待すると、直ぐにこれだ。
ウェンティは苦笑いを表情に浮かべ、「無理してない?」と難しい顔で自分を見下ろす男に尋ねた。
心配してくれていたことは分かった。
たとえ好意的に思っていない相手でも長年悪友として関わってきて突然五〇〇年以上音沙汰が無ければ誰だって気にはなるというものだ。と、期待は抱かず鍾離の気遣いを素直に喜ぶウェンティ。
しかし、仮にも相手を心配して酒の席に誘ったのならば、相応の態度と表情をしてもらいたい。
今の鍾離を見る限り、どう頑張っても『大して好きでもない相手と大して好きでもない酒を義務感で呑み交わす』という風にしか思えない。
だからこその『無理をしていないか』と尋ねる言葉。
すると鍾離はまた眉間に皺を作り、「まだ寝惚けているのか」と呆れたと言いたげだった。
「流石にもう起きてるよ」
「なら、長い付き合いと言えども五〇〇年も間が空けば他人という事か?」
「! そ、そんなこと、ないよ?」
言葉のチョイスが絶妙過ぎて、本当、腹が立つ。
(絶対ボクの気持ちに気付いてるでしょ?!)
好かれる側の余裕とはなんと居心地の悪いものだろうか。
鍾離が発した言葉は、単なる『知り合い』と言う意味の『他人じゃない』。ウェンティが期待する、『親しい間柄』という意味のモノじゃない。
そう分かっているのに、どうにもドキドキが止まらない。
「なら、分かっているはずだ。……お前は、俺がわざわざ『無理』して『酒を呑む』ような性格をしていると思うか?」
「……思わない」
「だろう? くだらないことを考えて自己完結するな」
「ごめんなさい……」
お説教モードに入った鍾離に肩を落とし、小さくなるウェンティ。
小言を聞きながら、『期待するな』と何度も何度も言い聞かせ、せめて友達になりたいという願いすら高望みだから諦めろと浮足立つ感情を制した。