「何をしている?」
「! あ、ごめん。そろそろ帰るね」
何とかしてもう少しこの場に留まれないかと考えてみるも、いい案は思いつかない。
思案している間に鍾離から訝しむような声がかけられてしまい、ウェンティは肩を落としながらも空笑いを浮かべて踵を返した。そんなに急いで追い出そうとしなくてもいいのに。そんなことを考えながら。
「おい、待て。どうしてそうなる」
「え?」
とぼとぼと彼の暮らす空間から立ち去ろうとしたウェンティに掛けられるのは、怒気を含んだ声。引き留める言葉に驚き振り返れば、頭を抱えている鍾離の姿が目に入った。
「俺相手に契約を違える気か?」
「ええ? 『契約』って、何?」
「酒の誘いに応じただろう?」
それなのに何故一滴も飲まずに帰ろうとしている。
思考が理解できないと眉を顰めている鍾離だが、それはこっちのセリフだと思うウェンティ。
酒を呑もうと誘われたのは確かだが、それは先の話をするための口実だったはずだ。だから話が終わったから帰るべきだと思っただけなのだが、まさか本気で酒を呑むつもりなのだろうか?
(って、そもそも『契約』じゃないし! それにボクは一言も『呑む』って言ってない!)
そうだ。鍾離の言葉を真に受けて傷付きたくないから返事を考えていた最中に連れて来られたのだから、契約―――もとい、約束もしていないはずだ。
それなのにどうしてこんなに自分ばかり悪いように責められるのか。鍾離を好きな気持ちは自分の勝手な片想いだという事は理解しているが、それでもその想いに胡坐をかいて横柄な態度を取られると腹が立つ。
ウェンティは我慢の限界だと彼を睨みつけた。
だがそれも長くは続かない。近付いてくる鍾離の姿に凄み続けることが困難になってしまうからだ。
何故か自分以上に怒りに満ちた表情をしている鍾離に、ウェンティは思わずたじろぎ、俯いてしまう。
「な、なんでそんな風に睨むの……。話が終わったから出て行けって言われると思ったから、言われる前に出て行ことしただけでしょ……」
「俺がいつそんなことを言った」
「態度が! 態度が物語ってる!!」
怒りに満ち満ちた風を纏いながら凄まれる身にもなって欲しい。
ウェンティはせめてもの反撃とばかりに声を荒げ顔を上げる。すると、動じないだろうと思っていた相手に僅かだが動揺が見て取れた。
この程度で? と思うウェンティだが、彼は気付いていない。自分が涙目になっていることに。
「わ、悪かった」
「へ?」
「つい、昔の癖で……。どうにもお前相手に畏まるのも妙な気がしてしまってな……」
難しい顔のまま、一歩後ろに下がる鍾離。
らしくないその姿にぽかんとしてしまうウェンティは、「頭でも打ったの……?」と考えるよりも先に言葉が口から出てしまう。勿論これは鍾離を心配しての言葉なわけだが、相手がその心中を正しく受け取ってくれることは無いだろう。