俯くウェンティ。どう自制しても期待してしまう自分に嘲笑が漏れそうだ。
だが、それに拍車をかけるのは彼の想い人その人で、ポンと頭に何かが乗ったかと思えばそれは鍾離の手で、少し乱暴にではあるが髪を撫でられてしまえば言い聞かせることも困難になる。
「……子ども扱いしないでよ」
「していない。三〇〇〇年も生きてる子どもがいて堪るか」
「そうだけどっ!」
ジトっと恨みがましく睨んでしまうのは、鍾離にとってはなんてことない振る舞いだと知っているからだ。期待させるだけさせて、やっぱりお前のことが嫌いだと態度に出すのがこの悪友なのだから。
これは彼の気まぐれによる戯れ。そう分かっているのに、手を振り払えない自分が哀れだった。
「機嫌を直せ。……お前が満足するほどではないが、それなりに量はあるからな」
離れていく手を名残惜しいと思いながらも、これ以上好きになりたくないからむしろ良かったと気持ちを切り替えるウェンティ。
踵を返した鍾離が何処へ向かうのかと目で追っていれば、見るからに値が張りそうな食器棚が目に入る。
林檎は丸かじりすればいいと言っていたぐらい料理ができなかった悪友がこんな上質な棚に片付けるほど食器を持っているとは素直に驚いてしまう。
「料理、できるようになったの?」
「いや? 何故だ?」
「凄く立派な食器棚だから、会わない間に料理に目覚めたのかと思って」
「なるほど。だが残念ながらそういったものは一切持ち合わせていないな」
「ならどうしてそんな大きな食器棚なんて置いてるのさ。お願いだから『これが凡人の住居だ』とか言わないでよ?」
いや、きっとそうに違いない。
鍾離のことを見た目から入るタイプだとは思わないが、『人』に紛れて生きることを選んでまだ日が浅い彼からすれば『人』の生活は勿論、住居なんて知る由もない事だったのだろう。
おそらく旧知の仲である仙人の誰かから助言をもらって拵えただろう住居ゆえ、彼らしくないモノがあっても何ら不思議ではない。
そう一人納得しているウェンティに、想像通りの返答が返ってくる。これらは全て歌塵浪市真君――ピンばあやと旅人に呼ばれている仙女から助言を得て揃えたものらしい。
「他のモノはともかく、片付ける食器もないのにそんな大きな棚を用意して、勿体ないんじゃない?」
「本来の使い方をしていないだけで、重宝している」
「何をしまってるの?」
普通に会話ができていることが嬉しい。
ついつい浮かれ気味に鍾離のもとへと足を進めれば、振り返る彼は何故かにやりと笑った。
ウェンティは不思議そうに首を傾げ、「モラクス?」と鍾離の真名を口にする。しかし次の瞬間、彼が浮かべた笑みの理由が分かって笑ってしまった。
「凄い! これ全部お酒なの?」
「そうだ」
『驚いたか』と言わんばかりに得意顔を見せる鍾離。
ウェンティはくすくすと笑いながら彼に駆け寄り、扉の開かれた食器棚の前で綺麗に整列されてる酒瓶の本数を数え始めた。
大瓶から小瓶まで多種多様な酒が取り揃えられていて、三〇を超えたあたりで数えるのを止めたウェンティは鍾離を振り返り、「コレクターにでもなったの?」と酒は嗜む程度にしか飲まない男にこれらを収集している理由を尋ねた。