「形あるものはいずれ崩れて無に帰す。それらを集めて何になる」
「えぇ? でもこれって『集めてる』って言わない?」
「これは『集めているもの』ではなく『用意したもの』だ。お前がいつ訪ねてきてもいいようにな」
「えっ」
確かに改めて見ると圧巻だな。
満足気にそんな言葉を続ける鍾離に、ウェンティの動きが止まる。
思わず彼を凝視するも、視線に気付いていないのか鍾離は棚から酒瓶を二本手に取り「まずは此処璃月港でつくられたものでいいか?」と尋ねて来た。
思考が停止してしまったウェンティだが、楽しげな鍾離の声と表情に我に返り、頬を引き攣らせながらも笑みを浮かべて頷いた。
「なんだその顔は」
「あ、いや、なんか、わざわざボクのために用意してくれたみたいで、驚いちゃって……」
「毎度毎度酒を用意しておけと喚いていたのは何処の誰だ」
「それは、ボクだけどさぁ……」
間の抜けた顔をするなと辛辣な言葉を口にしながらも鍾離の眉間には皺は無く、むしろ楽しそうだ。
とりあえず、迷惑だと思われているわけでもなければ、邪険にされているわけでもないように思える。
ウェンティは、悪友が本当に自分のために酒を用意してくれたことに喜び、顔は自然と笑顔になった。
「ほら、大人しく座れ。お前が目覚めるまでに璃月の酒造業も著しく発展したと実感させてやる」
「改めて実感するまでもないんだけど」
「そうだな。目覚めて暫く経つ上、璃月に訪れてはいたようだからな。既に知っていて当然か」
「うっ、そんな刺々しい言い方しないでよ。さっきちゃんと謝ったでしょ?」
謝罪を受け入れておいてネチネチ言うのは良くないと思う!
そう開き直ってみせれば、その言い分は確かに正論だと頷く鍾離。
しかし、ウェンティの言い分に納得しながらも、また難しい顔をされてしまった。
どうやらこの話題は早々に終わらせた方が良いようだ。
ウェンティは、このまま険悪な空気になっては堪らないとテーブルに置かれた酒瓶に手を伸ばす。すると、酒瓶に触れるより先に手の甲を叩かれて窘められてしまった。
「痛いよ」
「行儀がなっていない。招かれた客人はもてなしの享受だけしていろ」
「うぅー! なら早く頂戴よ!」
「まったく風情がないのは五〇〇年経っても変わらずか」
呆れたと言いながらも、鍾離は笑っている。
その笑みは、昔は遠くから眺めることしかできなかったもので、ウェンティは今はこれだけで十分だと頬を緩ませた。
これから先、もしかしたら悪友からかけがえのない友達として傍に居ることは許されるかもしれない。
そんな未来への希望を胸に、手渡される猪口を受け取り注がれる美酒に歓声を上げた。