「う、れしいこと言ってくれるね! どうしちゃったのさ? もしかして酔っぱらってる?」
らしくないよ。
なんとかそう言って茶化して笑うことができたウェンティだが、鍾離はそんな彼の心中など知らぬとばかりに「酔ってない。本心だ」と目尻を下げた。
初めて見たと言っても過言でない程優しい笑い顔。彼に密かに恋心を抱いているウェンティの心臓が飛び跳ねたのは、言うまでもない。
「ほ、ほらまたぁ!」
じいさんにこの酒量はきつかったかな!?
笑ながら鍾離の近くに置かれた酒瓶を遠ざけるのは、これ以上酔って心臓に悪い言葉を聞きたくなかったからだ。
酩酊状態だろう彼の口から出た言葉が、真実か否か判断できない。そして、自分も彼ほどではないにしろ酔いが回って正常な判断ができない状態だ。
先程よりもずっとうっかり口を滑らせる可能性が高くなっていることは分かるから、ウェンティはこの場から逃げるように「そろそろ帰るね」と早口で伝え立ち上がった。
「待て、バルバトス」
「え?」
早くこの空間から立ち去らなければ、『好き』が溢れてしまう。
そんな焦りから脈略など無視して帰宅を伝えてしまった事が仇になったのだろう。
不自然な振る舞いに、鍾離が疑問を抱かないわけがない。伸びてきて手は腕を掴み、「いきなりどうした」と怪訝な表情を見せる彼と目が合った。
「えっと……」
「バルバトス?」
「なんか、けっこう酔っちゃったみたい。さすがのボクも、全部空にするのは無理だったよ」
空笑いを浮かべ尤もらしい言葉を紡ぐウェンティだが、その顔が赤く染まっていると気付いてはいないだろう。
触れられた箇所が熱いと感じるのは、酒の上がった彼の体温のせいだろうか?
(お願い、早く離して)
そう願うのは、流れ込んでくるぬくもりが心を乱すからだ。
自分の様子が変だから引き留められただけだと分かっているのに、彼もまた、自分と同じようにもっと一緒に居たいと願ってくれているように勘違いしそうになる。
そんなことがあるわけ無いと知っているから漏れる自嘲。
ウェンティは自分を見つめる鍾離の眼差しに、鼻の奥がツンとなった。
(好き……。モラクス、好きだよ。ボクのこと、好きになってなんて言わない。でも、せめて友達としてこれからも傍に居させて欲しいよ……)
浅ましい想いを抱いてゴメン。
そんな風に自分の想いを卑下するウェンティは、どうすればこの想いを消すことができるのだろうと彼を見つめたまま考えた。
出会ってすぐ好きになった彼のことが、数千年経った今もまだこんなにも愛おしい。
嫌われていると知っている。でも、もしかしたら、嫌われていないかもしれない。
そんな期待がぐるぐる頭を回り、目の前の彼の姿がぼんやりとぼやけて来た。
自分を呼ぶ彼の声が何故か酷く遠くから聞こえるが、名前以外の言葉は聞き取れない。
ウェンティは何を言っているか分からないと伝えよう口を開いたが、それ以降、目の前は真っ暗になった。