ウェンティが眠っているだろう現実の自分に想いを馳せていれば、何故か突然身震いするような寒気を覚えた。
夢の中で何故こんなに寒いと感じるのかと思いながら熱が生まれることを期待して両手で腕を擦るも、望んだ結果は得られなかった。
きっと現実世界で自分は布団も被らずそこらで眠りこけているのだろう。
突然の寒気にそう推測しながら、悲しくも安心する。どうやら自分は失態を重ねることなく彼のもとから立ち去れたようだ。と。
記憶には無いが、最後の気力を振り絞って彼の家から出て力尽きているのだろう。暖かくは無いが寒くもない気候で良かったと思うのは、野外で眠りこけていると思ったからだ。
出来ることなら璃月を――せめて璃月港を出るまでは頑張っていて欲しいが、其処は望み薄だろう。
誰かに見つかる前に起きれればいいのだが、果たしてそう上手く事は運んでくれるのか。
これでもし璃月の人達に迷惑を掛けようものなら、折角近付いたと思った彼との距離がまた開きかねない。
そうなれば、自業自得と言えども流石に落ち込んでしまう。
ウェンティはそれを回避するべくさっさと起きろと自分自身に強く語り掛けた。
(ねぇ、起きてよ! 何処にいるか知らないけど、璃月の街中で酔い潰れて眠ってるとかまたモラクスに嫌われちゃうよ!!)
好きな人に嫌われたくないでしょ?
そう自分に問いかけ、目覚めを促すウェンティ。すると、真っ暗だった空間の遠くが僅かに白み始めた。
どうやら素直に目覚めてくれたようだと安堵するウェンティは、どうか路地裏とか人に迷惑をかけない場所でありますように……! と祈る想いで現実に戻る時を待った。
さて、目が覚めた自分が見るのは、薄暗い路地裏の風景か。それとも、日中は賑わいを見せる繁華街の景色か。
お願いだから前者でありますようにと願い、黒から白に変わる世界の中に意識を溶かしていった。
「…………え?」
ゆっくりと瞼を持ち上げたウェンティ。その目の前に広がる景色は、路地裏のモノでも繁華街のモノでもなかった。
其処に在るのは、いや、居るのは、別れたはずの鍾離だった。
「漸く起きたか」
「も、らくす……? え? なんで……?」
あまりに想定外のことが起こると人は思考を停止させて固まると聞いていたが、まさか自分もそうなるとは思わなかった。
ウェンティは自身の身に何が起こっているのか理解できず、身体を強張らせて硬直する。
酩酊状態になりながらも絶対彼と別れたはずだと思っていたウェンティだったが、そもそもが間違っていたようだ。
酔い潰れた自分は鍾離と別れること無く寝落ちてしまったのだろう。
きっと迷惑をかけたと頭を抱えたくなるウェンティの顔が青くなるのは、床に寝転がっているにしては背中が随分ふかふかだったからだ。
まさか……と何とか首を動かせば、やっぱりな状況で愕然とする。酔い潰れて迷惑をかけた上、どうやら彼の家のベッドを拝借していたようだ。
これがゲストルームか何かであることを願うウェンティだが、シーツから僅かに香るのは鍾離の匂いで、様々な感情が駆け巡って心臓の鼓動が早くなってしまった。
(うわ……ボク、モラクスのベッドに寝ちゃってる……)
家に入れてもらえただけでも飛び上がりそうなほど嬉しかったのに、まさか寝室にまで入れてもらえるとは思わなかった。
たとえそれが介抱のためだとしても、彼の近くにいることを許してもらえたように感じるのは当然だ。