ウェンティが目を覚ましたのは、陽の光が空高く昇った頃のことだった。
ぼんやりと見慣れない天井を眺め、昨夜の出来事を思い返しているウェンティ。
旅人達と食事を楽しんだ後の記憶は自分の妄想なのではないだろうかと己の正気を疑うも、視線を天井から隣で眠りこけている鍾離に向ければ、妄想でもなければ夢でもないことを目の前の寝顔が教えてくれる。
ずっと恋焦がれた相手と友人さながらに酒を呑み交わし昔話に花を咲かせた昨夜は、現実で起こった事のようだ。
そして、その後彼と一夜を共にしたのも、また紛れもない現実で。
(身体中、痛いや……)
ほんの僅かの動きですら全身に響く鈍い痛み。
だがそれを辛いと感じることは無く、むしろ嬉しいと、幸せだと感じてしまう。
酩酊状態とはいえ、ずっと好きだった相手に抱かれたのだ。幸せでないわけがない。
たとえそれがまやかしのひと時であろうとも、求められた事実は否定しなくてもいいだろう。そう、昨夜の行為に鍾離の心は伴っていなくとも、何も問題はない。
悪友は、愛して欲しいと求めた自分の声に応えてくれただけ。これは自分が望んだことなのだから。
(本当にごめんね、モラクス。ボクは君に酷いことをしてしまったよね。きっと君はもう、ボクの顔も見たくないと思うんだろうね)
酔った相手を唆し、あまつさえ性行為を強いるなど、真面目な彼が知ったら軽蔑では済まないはずだ。
二度と顔を見せるなと罵倒されるだけならまだしも、自分を敵だとみなすかもしれない。
しかし、それだけのことを自分はしてしまったとウェンティは理解している。だって自分は友人として改めて歩み寄ってくれた彼の善意に唾を吐いたのだから。
鍾離が好きだから。
なんて、言い訳にもならないことは重々承知だ。一方向しかない愛故の行為は、ただの暴力なのだから。
(モラクス……)
寝息を立てる鍾離を見つめ、思い出すのは昨夜の甘いひと時。
何度も名を呼び口付けてくれた彼は、想像していたよりもずっとずっと優しかった。
まるで壊れ物を扱うように大切に抱いてくれた彼の腕の中、ウェンティが覚えたのは激しい嫉妬だった。
きっと彼が今抱いているのは、自分ではなく他の誰かなのだろう。と。
そしてその誰かは、いつも彼にこんな風に愛されているのかと、気が狂いそうになった。
だから、ウェンティは何度も強請った。彼の全てが欲しいと、その熱も欲も全て自分のナカに与えて欲しい。と。
鍾離はその願いに応えるように何度も自分のナカに愛を残してくれた。
本当は自分に向けられたものではないと理解しながらも、この熱だけは自分のモノだとウェンティは喜んだ。
それがどれほど最低な行為か、ウェンティ自身、誰よりも理解していた。だから―――。
(ごめん……、本当に、本当に、ごめんね……、でも、でも、どうしても、ボクはどうしても君が好きだから我慢できなかったんだ……)
不意に与えられたぬくもりが恋しかった。だから、悪魔の囁きに抗えなかった。
それでも抗うべきだったと、後悔してももう遅い。
ウェンティは隣で穏やかな寝息を立てている鍾離の寝顔を見つめ、声を殺して泣いた。