TREMOLO [ANNEX]

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君の知らない物語



 時は数時間前に遡る。
 璃月が誇る祭典の一つである海灯祭がフィナーレを迎えようとしていた今日、ウェンティは『悪友』を訪ねるため璃月港を訪れていた。
 悪友に訪問の約束を取り付けていたわけではないため、彼の所在を方々で尋ねていた際、凡人になった彼と仕事をしているという女性に出会うことができた。
 ノリの良い彼女の計らいである意味予想外の再会を果たすことができたわけだが、悪友の態度は昔となんら変わってはいなかった。
 旅人や他の面々の手前あからさまな嫌悪を向けられることは無かったが、それでも言葉の端々から『さっさと帰れ』と本音が透けて見えていた。
 どれほど時が経とうとも、嫌われている事実は変えることはできないかと内心落ち込んだウェンティ。
 それでも他者にそれを悟られる程可愛げがある性格ではなかったから、悪友と同じく毒には毒を持って応戦してしまったものだから溝は更に深まったことだろう。
 表面上は楽しい会食の時間を過ごし、宴もそろそろお開きにしようという流れになった時、最後まで棘を忘れない悪友は、ウェンティが璃月で何か悪巧みをしようとしていると疑っているようだった。
 ただ彼に逢いたかっただけのウェンティからすれば、酷い誤解だ。
 しかし自分の態度が態度だっただけに悪友を責めることもできず、そんなことしないと意思表示を返すことしかできなかった。
 誰よりも早く宴から離脱したウェンティは、浴びる程お酒を呑んでこの悲しみを忘れたいと思い、酒を求めて海灯祭のお祝いで賑わう璃月港へと歩みを進めた。
 ただ酔い潰れて醜態を晒さないようにだけ気をつければ、悪巧み云々で文句を言われることは無いだろう。
 そんなことを自嘲交じりに考えながら。
 だが、璃月港の繁華街に出るより先に誰かに腕を掴まれ、路地裏に引き摺りこまれた。
 あまりにも突然のことに抵抗も何もできずされるがままだったウェンティだったが、何故か恐怖や警戒を抱くことは無かった。
 しかしそれもそのはずだと納得したのは、自分の腕を掴んでいた相手を確認した時だ。
 まぁ、何故? と疑問は抱くことになったが、それはこの後聞けばいいかと自分を見下ろす相手を見上げた。
「ボクに何か用? 鍾離先生」
 いつも通り。そう心の中で何度も自分に言い聞かせ、揶揄いを含む笑みと言葉を口にするウェンティ。
 心の中と表情がこれほど一致しない人物は早々いないだろうと、自分のポーカーフェイスを称賛しながら悪友――鍾離の反応を待っていれば、彼の眉間にあった皺が一層深くなった。
(ボクが璃月に居る事すら許せない。ってことかな……)
 彼の表情から伺える明らかな嫌悪。何度もそれを見て来たとは言え、久しぶりだと心が痛い。
 ウェンティは小さく息を吐くと、「分かったよ」と力なく笑った。
「勝手に来てごめん。すぐに璃月から出ていくからそんなに怒らないでよ」
 ヤケ酒を呑むことすら許してもらえないなんて、本当、とことん嫌われたものだ。
 自分はそれほどまで彼に嫌われることをしてきたのだろうか?
 過去の記憶はあやふやなものが多いから思い出せないが、でもきっとそうなのだろう。そうでなければ賢王である彼が此処まで誰かを疎むことなど無いはずだ。
 身から出た錆とはいえ、心が折れそうだと心の中で自嘲する。
 もう彼には近づかない方が良いだろう。彼のためにも、自分のためにも。
 彼と言葉を交わせなくなることは身を切られる程辛いが、こうやって嫌悪をまざまざと向けられることもまた辛い。
 どちらも辛いのであれば、せめてこれ以上嫌われない方法を選ぶべきだろう。
 ウェンティはもう一度「本当にゴメンね」と今までのことも含めて謝罪した。



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2023-11-18 公開



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