「も、らく、す……?」
こんな、まるで『離さない』と言わんばかりに抱きしめられては、勘違いしてしまうではないか。
そんなことを考えながらぐすぐすと鼻を啜り、何故と尋ねるウェンティ。
まさか、自分の卑劣な行為を断罪しに来たのではないとでも言うのだろうか?
(そんなわけない。ボクは、ボクはモラクスの信頼を裏切ったんだから)
継ぎ接ぎだらけだった友情を完全に壊してしまったのは自分だ。期待するなんて、おこがましいにも程がある。
そう言い聞かせるのに、どうしたって『期待』してしまう。
何故なら、自分を抱きしめる力強い腕と、自分と同じぐらい早く脈打つ彼の心臓の鼓動が伝わってくるから……。
「お前はどれだけ俺を振り回せば気が済むんだ」
「なに、が―――」
「漸く手に入れたと思ったら、また、だ。掴まえたと思えば実体のない風のごとくすり抜けてゆくお前を、どうすれば俺のモノにできるんだ?」
一層強く抱きしめてくる鍾離が、何を言っているのか分からない。
何故なら、今の言葉をそのまま受け取れば、まるで鍾離が自分に愛を告げているとしか思えなかったから。
そしてまた、自分がその愛を享受することなく彼を袖にしているように思える言葉だ。
実際は逆なのに、彼は何故そんな言葉を選ぶのだろう?
こんなにも苦しい程鍾離を愛しているのに、何故そんな誤解が生まれているのかウェンティにはどうしても理解できなかった。
「お前の意思など知るものか。俺を弄んだ代償はその身を持って償わせてやる。……確かに、そう思っていたんだがな」
「モラクス……?」
僅かに緩んだ腕に、ウェンティは顔を上げる。
涙は引っ込んでいたが、その名残を残す目尻と頬に添えられるのは鍾離の大きな手で、それは簡単にウェンティの半面を包み込んでしまう。
「……俺を想い、泣いていたのか?」
目尻をなぞるように動く彼の指は、涙を拭っているようだった。
その手のぬくもりと、かけられる声色の優しさにウェンティは『偽りの姿』を纏うことも忘れ、顔を歪めた。
「だって、もう君に逢えないって……、逢いに行けないって……、それが、それが悲しくて、苦しくて……」
絶望がぶり返し、ウェンティの瞳からは大粒の涙が零れ落ちる。
だが、それは頬を濡らすことは無かった。鍾離の指が拭いさってくれたから。
「あの日、俺を愛していると言った言葉は真実だと言うのか?」
「! な、なんで―――」
「バルバトス、答えろ。あの日―――俺がお前を抱いたあの夜、お前が俺に言った『想い』は真実か?」
鍾離の言葉にウェンティの表情は青褪める。何故彼はあの夜のことを覚えているのだろう? と。