「はぁ……、やはりお前は最低だ」
「っ―――」
深い溜め息と、詰る言葉。
ウェンティは改めて『嫌悪』を向けないでと、もうこの恋心は手放すからこれ以上責めないでと表情を歪ませた。
だが、悲し気な笑みを浮かべたまま鍾離が紡いだ言葉は信じられないものだった。
「だが、最低だと思いながらもどうしてもお前を愛おしいと思ってしまう俺は救いようのない阿呆だろうな……」
「……え?」
「今も昔も変わらずお前を愛している。何度裏切られようとも、俺はお前以外を愛すことができそうにない」
半面を覆っていた大きな手を離す鍾離は、涙で濡れたもう半面の目尻を指で拭って来る。
自分に触れる優しい指先に、ウェンティの表情に浮かぶのは困惑。
鍾離は仕方のない奴だと言いたげに苦笑を浮かべると、「だから」と言葉を続けた。
「俺に気が無いと言うのなら―――、俺のことなど愛していないと言うのなら、今此処でハッキリさせてくれ。これ以上振り回されれば、俺はその翼を捥いでお前の自由を奪い去ってしまう……」
三度目があれば、自分はもう狂気を抑え付けることができない。
そう言って琥珀を伏せる鍾離。
苦しくて堪らないと言わんばかりの表情に、ウェンティは唇を震わせながらも問いかけた。それは自分の台詞だ。と。
「ボクのことが嫌いなら、そう言ってよっ。ボクが君を好きだって知ってるくせに、どうしてそんな酷いことを―――」
「二度裏切っておいて、俺を責めるのか?」
一層悲しげな表情を見せる鍾離だが、何のことか分からない。ウェンティは彼が言う『裏切り』に全く心当たりがないからだ。
眉を下げるウェンティに、言葉にせずとも言いたいことは伝わったのだろう。鍾離は小さく息を吐くと「お前にとっては取るに足りないことだったのか?」と尋ねてきた。
「ちがっ―――、そうじゃなくて……。そもそも君がボクを遠ざけたんじゃないか……」
「俺がお前を? ……それは、いつのことだ?」
「ずっと昔のことだよ……。まだボクがモンドの神でいた頃、お酒の席で酔っぱらったボクが君の頭にお酒をかけたことがあったでしょ……」
「やはり覚えていたのか」
悲しげな表情に怒りが戻る。鍾離が当時を思い出している事は明らかだ。
ウェンティはやっぱりアレが嫌われた原因だったのかと再確認し、本当にあの日の自分を殴りに行きたいと思った。
「ごめん……、正直あの日の記憶は無くて、バアル達に後から聞いたけど、酔っぱらったボクは君に相当迷惑をかけたんでしょう? あの日から、途端に冷たくなったもんね。モラクス……」
改めて口にしてまた泣きそうになるウェンティ。
どうすれば時間を戻すことができるのだろうと考えるだけ無駄な事を考えてしまうほど、後悔が募った。
それでも必死に涙を堪え、どうか許して欲しいと許しを請うウェンティ。あの日自分が何をしたか覚えていないが、それでもずっと悔やんでいるからどうか……。と。
縋る思いで鍾離を見つめれば、顔を顰める鍾離からは「本当に覚えていないのか?」と演技を疑われてしまった。