誓って演技なんてしていないし嘘も吐いていないとウェンティが訴えるも、鍾離から向けられるのは疑惑の目。
だが、それを真っ直ぐ受け止め琥珀を見つめ返していれば、また小さな溜め息が彼の口から漏れた。
「……質問を変える。お前はあの時、俺のことをどう思っていた?」
「え……? ど、どうって……?」
質問の意図が分からない。だが、それを問える雰囲気ではないように感じたウェンティは、鍾離が何を知りたいと思っているのか分からないものの、真実を話さなければ本当に彼とは今後顔を合わすことも叶わなくなると直感した。
自分の想いを彼に伝えることは、正直恐ろしい。だが、鍾離が先程口にした『言葉』がもしも真実であると言うのなら、恐れる必要はないはずだ……。
意を決して口を開くウェンティ。
しかし、唇は震え、言葉は喉の奥に引っかかったように零れてはくれなかった……。
ただぱくぱくと唇を不格好に動かしている自分の姿に鍾離が見せるのは苦笑い。
そして、今度は両手で頬を包み込んできた。
「よく聞け。そしてまた次俺を誑かせばどうなるか、その能天気な頭に叩き込んでおけ」
随分な言われようだと反論したいところだが、やっぱり言葉は出てきてくれない。
泣きそうに歪んでいるだろう己の表情を想像すると、どうにも情けなかった。
「俺はお前を同じ七神の一柱として見ていたことなどただの一度もない。俺にとってお前はかけがえのない知己であり、そして―――、……そして、伴侶とするべき大切な恋人だと思っていた」
「! え……?」
「……やはり、お前はそう思っていなかったようだな」
突然の告白に翡翠が零れ落ちそうになる。
ウェンティのその表情を見た鍾離は、苦し気に表情を歪めると頬を包み込んでいた手を離し、そして力ない笑みを浮かべた。それは、自嘲と呼べるものだ。
「いや、分かっていたさ。あの日、思い知らされたからな」
「も、モラクス……?」
「……すまない。思い返せば、お前を責めるのはお門違いだった。お前がそれまで俺に向けて口にしていた『好き』という想いが俺とは全く異種のものだと知り、覚えた恥と怒りをお前にぶつけてしまっていた」
今になって漸く自分の弱さを認める事が出来たと力なく笑う鍾離。ウェンティは何故彼がそんな風に思いこんでいるのか、見当もつかなかった。
ウェンティは昔から鍾離のことが好きだった。それこそ、友愛ではなく生涯を共にしたいという意味での『愛』だ。
それなのに、何故彼は自分の想いを『異なるモノ』だと決めつけているのだろうか……?
「だが、神の座を降り『鍾離』となって『モラクス』としての全てを断ち切るつもりだった俺の前に、お前は現れた。だから俺は―――、俺は、お前が望む健全な友情を育もうと努力するつもりだったんだ」
鍾離が見せるのは、悲しみと怒りの滲んだ琥珀色。
それを受け止める翡翠は、不安そうに揺れていた……。
「それなのにお前は、想いを手放しきれていない俺を嘲笑うようにまた俺を翻弄した。俺のことをまた『好き』だと言い、あまつさえ『愛している』と『愛してくれ』と泣いた。その言葉を聞いた時、俺がどれほど歓喜したかお前には分かるまい」
酒に酔っていたことは分かっていた。
だが、零された涙と向けられた眼差しに、言葉に偽りは無いと信じた鍾離に待っていたのは、最悪の目覚めだった。