TREMOLO [ANNEX]

ゆらゆらぎが運営する同人系個人サイト

君の知らない物語

26



「漸く手に入れた。そう喜んだ俺を、お前はまた裏切った。正直、味わった絶望は1度目の比ではなかった」
 家どころか璃月港中を探し回ったと言った鍾離は苦痛に顔を歪め、ウェンティの肩をつかむとそのまま抱きしめてきた。
 抗うことなく彼の腕に攫われたウェンティは、苦しい程強く抱きしめてくる男の言葉に既に頭は真っ白だった。
「お前が俺の想いを弄ぶと言うのなら、俺にもお前の自由を蹂躙する権利があると思って当然だろう?」
 だから、ずっと探していた。
 そして探しながらまた心を乱されたと言う鍾離は、気付いていたようだ。ウェンティの痕跡を辿った先々が、自分達にとって大切な思い出が刻まれている場所だという事に。
 抱きしめる腕に更に力を込める鍾離は、再度尋ねた。
「教えてくれ、バルバトス。あの夜お前が口にした『想い』は、お前の本心か? それとも―――」
「本心だよっ!!」
 これ以上、鍾離の口から自分を傷つける言葉を紡がせまいと必死に声を絞り出したウェンティ。
 思いの外大きく響いた声にウェンティ自身も驚いたが、驚くのは後回しにして必死に自身の心を吐露し、鍾離に伝えた。ずっとずっと愛してる。と、君だけを出会う前からずっと愛している。と……。
「先も言ったが、三度目はもう無いぞ? 次同じことがあればお前は永劫俺の傍で囚われることになるが、それを理解しての言葉か?」
「ボクはずっと、ずっと君が好きだって言ってるっ! 一度目は覚えてないし、二度目も、……二度目も、君に嫌われていると思っていたから、だから……怖くて……」
 酔った勢いでもいいから、一度だけでも君に愛されたかった。
 でも夢のような一夜が明けて冷静になった自分がどれほど卑劣な事をしてしまったかを考えて怖くなった。
 鍾離のもとから去った理由を吐き出しながらまた涙を流すウェンティは琥珀を見つめ、尋ね返した。
「君がボクを好きだって、信じていいの……?」
 と。
 縋る眼差しを向ければ、歪められる精悍な顔立ち。そして、己の胸に顔を押し付けるよう強く抱きしめられた。
「言っただろう? 俺はずっとお前だけを愛している、と。あの夜も俺の意思でお前を抱いた。……お前だから抱いたんだ、バルバトス」
「っ、モラクスっ!」
 広い背中に手を回ししがみ付くウェンティはまるで幼子のように声を上げて泣いた。
 信じられない。と、夢みたいだ。と、歓喜の涙を流せば、頭上から震える声で「俺もだ」と愛しい音が聞こえた。
「頼むから、もう二度と俺を裏切ってくれるな。……お前に愛されていると浮かれて奈落に突き落とされるのはもうこりごりだ」
「そんなの、ボクも一緒だよぉ……」
 鍾離を傷付けるつもりなど一切ない。何故愛しい存在に敢えてそんな仕打ちをしなければならないのか。
 そもそも彼が言う最初の『裏切り』も、ウェンティには心当たりがないのだから。
「お前の酒癖には困ったものだな」
「うぅ……ごめん、もう呑まないから許してよ」
「できない約束を口にするな。俺が知る限り、お前以上の酒好きは見たことがないぞ」
 鍾離が笑っていることは腕の中で感じる振動が教えてくれた。
 確かにお酒は大好きだけどそれ以上に君が好きだからこその約束だとしがみ付けば、抱擁はより強くなった。



 | 


2024-02-26 公開



Page Top