TREMOLO [ANNEX]

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君の知らない物語

28



 鍾離からの問いかけに応えるように頷きを繰り返すウェンティ。
 大好きで大好きで堪らないんだと伝えるように力いっぱい彼にしがみつけば、幼子をあやすように優しい手で背中を叩かれた。
「やっぱり、もうお酒呑まないぃ……」
「俺が同行していれば良いと言っているのにか?」
「あの時も一緒に居たじゃない……」
「あの時はお前の心が分からなかっただけだ。……お前が口にする言葉にどれほどの重みがあるか分かっていなかったからな」
 今はもう分かっているから心配するなと言ってくる鍾離は、こんな風に涙で顔面をぐしゃぐしゃにするほど想われているのだから誤解しようがないと笑った。
 昔からこうだったと変な意地を張るウェンティは、想いを明確に乗せた言葉を伝えられなかっただけだと言い訳を零した。
「だってモラクス、一回も『好きだ』って言ってくれなかったじゃないか」
「そうだったか?」
「そうだよ! そりゃ、『特別かも?』って思わなくもなかったけど……。でも、でもはっきり言われてないからボクだって言えないよ」
 こんなのただの八つ当たりだと分かっている。分かっているが、口から零れてしまう悪態。
 ウェンティがどうして自分はこうなんだと反省していれば、頭上からは「なるほど」と何やら納得したような声が聞こえた。
 まさか今の八つ当たりを真に受けてしまったのだろうか?
 鍾離に非など全くないのに、謝られたらそれこそ自分を殴りたくなるほど嫌になってしまう。
「確かに一理ある。……ならば、これからはきちんと伝えることにしよう」
 慌てて顔を挙げれば、何やらブツブツ言っている鍾離と目が合った。
 先の言葉はただの八つ当たりだから本気にしないで。
 そう伝えようとしたウェンティだったが、近付いて来る精悍な顔立ちに見惚れて言葉を失ってしまう。
(モラクス、大好き……)
 うっとりとその容姿に見惚れていれば、顔はどんどん近付いて来て……。
(あれ……? ボク今、モラクスとキスしてる……?)
 ふにっと唇に柔く暖かいものが触れ、思わず目を閉じた。
 失った視覚を補うために他の感覚が鋭くなり、唇に感じるぬくもりはより鮮明になった。
 柔く暖かい何か――鍾離の唇が離れ、キスの余韻に夢見心地になりながらも瞳を開けば、これまた蕩けるほど優しい笑みを浮かべている鍾離の顔面が目の前に。
「愛している、バルバトス」
 囁くような低い声で与えられる愛の言葉の後、また降って来る口づけ。
 ウェンティは鍾離の上着をぎゅっと握りしめ、触れるだけの口づけ一つで心が蕩けてしまうのだから想いが通じ合うとは凄いことだと思うのだった。
「……お前の唇は実に甘美だな」
「モラクス……」
「これからは疑う余地など微塵もない程愛してやるから覚悟するんだな」
 唇をなぞるように指を這わせる鍾離の極上の囁き声にウェンティはこくりと頷き、彼の愛を享受できることを喜んだ。



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2024-02-26 公開



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