「やっはり、もらくしゅ、かっこいぃなぁ……」
酔っ払いに脈略を求める方が間違いなのだろうか。
ウェンティは先程の不機嫌など忘れたかのように頬を緩ませ、うっとりと神像を見上げている。
そして、手にしていた酒瓶を離したかと思うと、それが地面に落下して割れるよりも先に岩神の神像の肩へと飛び移った。
「えへへ……もりゃくしゅ、らいしゅきぃ……」
パリンと酒瓶が砕ける音がしたが、ウェンティの耳には届いていない。
無機質な石像の頬にちゅっと口付け恥ずかしそうに笑う彼は、誰も見てないよね? と、きょろきょろ辺りを見渡して照れたように身悶える。
「ちゅー、しちゃっら!」
これは自分だけが知る秘密のキスだと嬉しそうなウェンティだが、彼は酔っぱらって正常な思考ではないようだ。
彼が口付けたのは、七天神像。そして七神本人は己を模した神像と意識を繋ぐことが出来る。
そして、つい先程彼が言っていた通り、鍾離がこの七天神像と意識を繋いでいる可能性は非常に高い。
つまりこの口づけは全く『秘密』になっていないということだ。
その証拠に―――。
「口付けるなら、紛い物ではなく俺にしろ」
岩神の七天神像の前に立っているのは、岩神モラクス――もとい、鍾離その人だった。
「もりゃくしゅ!」
ご機嫌に詩でも唄い出しそうなウェンティは、見つけた姿に表情を輝かせ、それはそれは嬉しそうに笑った。
その姿に鍾離が見せるのは苦笑いで、どうやら思っていた以上に酔っぱらっている姿に呆れているようだった。
「そんなところに昇って悪戯をするな。危ないだろうが」
「へーきらもーん!」
舌足らずな悪態と、あっかんべーと可愛くない態度を返すウェンティ。
泥酔も良いところだと小さく息を吐くと、鍾離は『降りて来い』と言わんばかりに両手を広げて見せた。
「! いっくよー!」
ウェンティは表情をますます輝かせ、神像の肩から飛び降りる。普段なら風の力を借りるところを、その身一つで。
重力に従い落下する身体。だが、ウェンティは恐怖など感じていなかった。
それは酔っぱらっているからではなく、絶対的な信頼が地上にあるからだ。
「いきなり飛び降りるな。馬鹿者が」
事も無げにウェンティを抱き留める鍾離は、自身の恋人が纏う酒気に思わずクラっと軽い眩暈を覚えた。
(本当にどれほど呑んだんだ。この呑兵衛は)
酔っぱらえば良いとは思っていたが、此処までは想定していなかった。
全く以て予想できない存在だとウェンティに呆れる鍾離だが、その表情は何処か愛しげだった。