TREMOLO [ANNEX]

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七天神像と感覚が繋げられる岩神と風神の話



「うぅぅ……」
 璃月の神――岩神モラクスの七天神像の前で唸り声をあげているウェンティは、目の前で玉座にふんぞり返る男の姿を模した石像を恨めしそうに睨みつけていた。
 手にしているのは空になった酒瓶で、その呼気からはアルコールが漂い、近くにいる者を酔わせてしまいそうなほど酒臭かった。
 目を据わらせ神像を見つめる彼は、どうやら酷く酒に酔っているようだ。
「ろうせ、きみのことらから、ボクがここにいることらんて、おみとーしなんれしょ」
 覚束ないどころか何を言っているのか理解し辛いほど呂律は回っていない。
 そんな状況にも拘わらず、ウェンティはふわりと風にその身を浮かせふんぞり返っている神像の膝に降り立った。
 平衡感覚すら危うくなっている彼は降り立つや否やよろめき、そのまま座り込んでしまう。
 岩神モラクスの膝に座ったウェンティは、猶も恨めしそうな眼差しを神像に向けていた。
「ボクはきみみらいに、なれてらいんらから! きみりは、ぜーんぜんへーきなことれも、ボクはそーじゃらいんらかられ!!」
 酒瓶を持った手で岩神を指差し睨みつけるウェンティ。
 こんなところを璃月の民に見られたら、なんて不敬な輩だと怒られるだろう。
 もしかすると、千岩軍に通報されて牢屋行なんてこともあり得る。
 それを分かっていながらもくだを巻くのは、この岩神に振り回されているからだ。
 モンドで名の知れた吟遊詩人であるウェンティは、これまで多くの詩を唄ってきた。その中には勿論『人』の色恋を唄ったラブソングも数多くあった。
 しかし、多くの恋詩を唄いながらも、唄っている本人は詩のような恋の経験は皆無だった。
 何故なら、彼が好きになった相手は初恋から今に至るまでモラクス――鍾離だけだからだ。
 秘めた恋心の詩や報われない恋の詩ならお手の物だが、二人の関係が進んだ恋の歌はまだまだ知らないことの方が多く、今は唄うのすら恥ずかしいと思ってしまっている。唄いながら、自分と恋人の恋模様をそれに当て嵌めてしまうから。
 恋詩を唄うだけでもこの様なのだ。顔を突き合わせた『恋人』の雰囲気になど、慣れるわけがない。
 たとえ身も心も結ばれた後だとしても、慣れないものは慣れないのだ。
 鍾離の言動一つ一つに慌てふためいてしまうウェンティは、自分とは違い慣れた様子の彼が恨めしいと明瞭とは言えない呂律で神像に愚痴っている。
「ボクはしょしんしゃらんらから、ちょっろはてかげんしれよれ!!」
 ギロリと神像を睨みつけるウェンティ。
 勿論、神像が反応を返すわけもない。もしこれを鍾離が見ていたとしても、石像を動かすことは流石に不可能だ。
 それを分かっているのか、ウェンティは不満をぶちまける。
 もう少し自分に合わせろ! だの、慣れてるところが腹が立つ! だの、今まで色んな人と色恋を楽しんできたくせに! だの、それらは『不満』と呼ぶにはあまりにも意地らしく愛らしいものだったが。
 ひとしきり不満をぶちまけた後、興奮のためか彼は肩で息をしていた。
 呼吸を整えるために繰り返す吐息はやっぱり酒臭い。
 己の呼気から漂う芳醇なブドウの香りを嗅ぎながら、ウェンティは再び岩神モラクスの七天神像を見上げた。
 だがその視線は先程までのような恨みがましいモノではなく、何処か切なさを孕んだ恋焦がれる眼差しだった。



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2024-08-24 公開



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