ウェンティが指さした鍾離の下肢には普段は存在しない隆起が。
それが何故できているのか理由は分かっているのだが、その理由に至る原因が分からないと言った様子の恋人に鍾離は小さく息を吐いた。
「身体から酒気を抜くためとはいえ、お前と口づけていて興奮しないとでも?」
「こ、興奮って――!」
「なんだ? 口づけ一つで興奮するなと言いたいのか? 恋仲になったことをいまだ恥じらって璃月に来ることを避けていた奴に言われたくないぞ」
顔を赤らめ『信じられない!』と言いたげな眼差しを貰えば流石の鍾離もムッとしてしまうというものだ。
驚愕の滲む翡翠に不機嫌な琥珀を返せば、たじろぐウェンティ。鍾離はそんな恋人を見つめ、少しの物悲しさを感じた。
念願叶って恋人になれたものの、逢いたいと願い隣国を訪れるのは自分だけ。
逢えばいつも通りの友人然とした振る舞いで、二人きりになれば確かに甘えてくれるのだが、事が済めばいつも身悶えている。
そんな姿を何度も見れば、いい加減慣れろと思わなくもない。
いや、ウェンティの性格を考えればただ恥じらっているだけだろうということは分かっているのだが、それでも、だ。
酒を煽る切欠を与えて漸く璃月を訪れる恋人に、求めているのは自分だけなのかと不安が口を突いて出てしまった。
「! そんなわけないでしょっ!?」
「本当か? 俺は逢いたくてもう何度もモンドを訪れているが、お前は今日まで一度も顔を見せなかった。それは何故だ?」
「そ、それは――……、それは……」
言葉を詰まらせ、また俯くウェンティ。
酒を抜いても会話にならないのであれば、あのまま甘える恋人を堪能しておけばよかったと鍾離が思ってしまうのは仕方ない。
だが、小さく息を吐く彼に肩を震わせたウェンティは、「仕方ないでしょ」と小さな声を漏らした。
「何が『仕方ない』?」
「だって、ボクは君みたいに慣れてないんだ。恋人なんて居たこと無いし、何もかも君が初めてなんだよ? それに君とはずっと、ずーっと友達だったんだから、恋人らしく振舞うってどうしていいか分からないって思って当然じゃないかっ」
弁解しながら感情的になるウェンティは、俯いていた顔を上げ、鍾離を睨んだ。ボクも素直に君に甘えたいのに上手くできなくて悩んでるんだからね!? と。
どうすれば素直になれるのか毎日悩み考えているのに、そんな風に責めるなと逆ギレのように怒り出した恋人に、鍾離はにやけそうになる頬を必死に引き締め、形だけの不機嫌を装った。
表情を強張らせ眉間に皺を作れば、怯むウェンティ。
視線を逸らすように顔を背ける彼は、「そもそも」とまた愚痴を零した。
「直ぐに素直になれる可愛げがあればこっそりと七天神像を見に来てないし……」
「だが今はそれすら止めただろうが」
「! そりゃね!? 君に筒抜けだと分かってるのに、あんなことできるわけないでしょ!?」
確かに、相手に伝わると分かっていて七天神像に『祈る』ことが出来るのならば、素直に甘えることなど簡単だろう。
どうせ呆れて馬鹿にするんだろうと愚痴るウェンティは、自分はもう八方塞がりなんだと嘆いている。
鍾離はそんな恋人に、形だけではなく本気の不機嫌を返した。
「つまりお前は俺に『呆れ』、『愚かだ』と思っているということか?」
と。