TREMOLO [ANNEX]

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七天神像と感覚が繋がってしまった風神の話



 蹲って涙を堪えるウェンティ。
 願望が見せる景色の中に佇んだ鍾離は黙って此方を―――七天神像を見上げている。
 その眼差しが何処か頼りないものに感じてしまうのは何故だろうか。こんな彼の表情は自分の記憶にはほとんど存在しないはずなのに。
 ウェンティはどうせ願望なのだからもっと優しい、慈しみに満ちた表情の彼を見せて欲しいと自分の深層心理に語り掛けた。
 すると願いが叶ったのか、鍾離は笑う。何処か困ったような笑みだったが、ウェンティが望んだとおり優しいそれだった。
(モラクス……)
 どうすれば想うことを許されるだろう。この想いを秘めたままこれまで通り彼の傍にいるためには、いったい―――。
 考えても無駄な事を考えてしまうウェンティが想像の中の彼に想いを馳せていたその時、鍾離の姿が近付いた。
 それは歩み寄ったと言うわけではなく、大地を蹴り、七天神像に飛び乗ってきたのだ。
 急に近くなる距離に、驚くウェンティ。
 願望は何を見せようとしているのかと考えながらも、思い当たる節はある。自分はこうやって彼を想い『祈り』を捧げてきたのだから。
(まさか、ね……?)
 確かにこれは願望だ。しかし、鍾離がそんなことをするわけがない。だって彼は、彼は自分のことを――――。
 想像上でも期待するなと自分の妄想にストップをかけるウェンティだが、目の前の光景は変わらない。
 むしろ自分の―――七天神像のに手を伸ばしてくる彼に、心臓がドキドキし過ぎて目が回りそうだった。
「!!」
 平静を装うも、無理だった。周囲に発生するのは暴風で、ウェンティの動揺を言葉以上に表していた。
 ウェンティは立ち上がると己の唇を覆い隠し、真っ赤な顔で目を白黒させていた。
(なっ、なんでっ……!? なんで――――、今のっ、なんで、キス? なんで唇に感覚、あるの!?)
 目の前に広がるのは、美しいモンドの風景。自分以外に誰もいないはずなのに、確かに今、誰かが唇に触れた。
 そして、唇に温もりを感じたその瞬間、自分の願望が見せる鍾離もまた、七天神像に口づけていた。
 願望が見せる映像にどうして感覚がリンクするのか分からない。
(それにほっぺた! ほっぺたも触られたっ!?)
 口づけの直前に七天神像の頬を撫でてきた鍾離の手の動きにリンクするように、ウェンティもまた頬を撫でられた感覚を覚えていた。
 いったい何が起こっているのか。
 これは自分の願望が見せる妄想ではなかったのか。
 理解を越えた出来事に、ウェンティは動揺し、力の制御が上手くできずにいた。
 吹き荒れる暴風は幸いにも星拾いの崖周辺で留まってくれているものの、周囲で命を育むモノ達にとっては脅威でしかないだろう。
 しかし、分かっていても直ぐに切り替えられない程、ウェンティは今の自分の状況に混乱していた。
 そしてそんなウェンティを更に動揺させるのは、七天神像を愛しげに見つめていた鍾離が何かに気付き振り返ったから。
 彼が見つめるその先にあるのは――――――?
(え……? その方向ってまさか……)
 鍾離が見つめるその先にあるのは、星拾いの崖。つまり妄想の中の存在であるはずの彼は、何故か今のウェンティの状況を感知したかのような振る舞いを見せたのだ。



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2024-05-28 公開



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