TREMOLO [ANNEX]

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七天神像と感覚が繋がっている岩神の話



 岩神モラクスの神像と顔を突き合わせるように宙に浮かぶ友人は人のサイズよりもはるかに大きな像の顎に手を伸ばすと、そのまま自身の顔を像へと―――岩神の神像の唇へと近づけた。
 距離があるため断定はできないが、遠目から見たその行為は愛しい者へ愛を伝える行動の一種と言われているものだった。
 思わず足を止める空は、今の見た? と相棒に尋ねるために隣へと視線を向ける。
 だが、そこに思った姿は無くて、後方を振り返れば驚愕のあまり真っ青な顔をして震えているパイモンが「い、今のって……」と自分の見たモノは幻覚かと尋ねてきた。
 人は自分よりも取り乱している相手が居ると冷静になるとはよく言ったものだ。
 空は混乱していた思考がすーっとクリアになっていく感覚を覚えながら、踵を返してパイモンの元へと歩み寄った。
「残念ながら、俺にも見えたよ」
「ひっ―――! な、なんでだ!? なんで吟遊野郎が鍾離―――モラクスの神像にキスなんてしてるんだ!?」
「うーん……。流石にそれは俺にも分からないかなぁ……」
 恐ろしいものを見たと言わんばかりのパイモンに、空が見せるのは苦笑い。
 今見た事実だけで推測していいのならば答えは簡単だ。
 キスには様々な意味が込められていると双子の妹から聞いたことがあるが、それでも唇へ贈るそれの意味は実に単純明快な意味を示していて、相手に対する明確な好意だ。
 つまり、ウェンティは岩神モラクスに――鍾離に好意を抱いているといういうことになる。
 きっと二人の関係性を知らない頃なら、特に驚くことも無ければ、あり得ないと今の状況を理解することを拒否することも無かっただろう。
 だがしかし、二人の関係性が良好でないことを空もパイモンも知っている。
 顔を合わせれば息をするように舌戦を繰り広げる姿を鮮明に思い出せるほど見てきたからこそ、今見たウェンティの行動に取り乱してしまうのだ。
「吟遊野郎ってもしかして鍾離の事――――」
「好きかもしれないね」
「あーーー! やっぱり!! やっぱりそうだよな!?」
 じゃなきゃ、こそこそ隠れて神像にキスなんてしないよな!?
 そう絶叫するパイモンの声量はかなりのモノだった。
 いくら離れてるとはいえ流石に声が大きすぎると空が相棒を注意しようとしたその時、背後に感じる風に、肝が冷えた。
「旅人。パイモン」
「! 吟遊野郎っ!!」
「や、やぁ、ウェンティ。久しぶり」
 絶叫して友人を指差すパイモンに頭を抱えながらも空は平静を装いいつも通りの挨拶を心掛ける。
 だが、振り返った空が見たのは、先程のパイモンの比ではないほど青褪めているウェンティの姿だった。
(あ……、これ、本気の反応だ……)
 声を掛けてきた当人の様子に、空は理解した。
 今此処でいつものように笑うことができない―――取り繕うことも、誤魔化すこともできないほど、ウェンティは鍾離のことが本当は好きなんだ。と。



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2024-04-19 公開



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