「えっと、ウェンティ……?」
顔面蒼白な少年の姿に思わず手を伸ばす空。その肩に触れた時、彼が震えている事に気が付いた。
そして思い出す。目の前の少年の性格を。
たくさんの隠し事を秘めている彼はいつも飄々とした性格で周囲を煙に巻き、時にそのおちゃらけた態度で人々を翻弄しているが、本当は誰よりも優しく、そしておそらく誰よりも臆病だろうことを。
(ああ、そうか。本当に好きだから、それを見せることができないのか)
鍾離への態度は他よりも彼の本心に近いと思っていたが、ある意味それは正しく、そしてある意味では間違っていたことを空は理解した。
舌戦を繰り広げながらも、二人の間には他者が入り込めない何かがある。それはおそらく旧知の仲故のモノだろうが、その中にはウェンティの鍾離への秘められた恋心が存在していたようだ。
決して他者に、そして本人に気付かれることのないように、彼が自分の特別であると、自分だけが分かる形で旧友と接していたのだろう。
それはなんといじらしいことか。
空はこの世の終わりだと言わんばかりの顔で言葉を探しているウェンティに苦笑いを返した。
「そんな顔しないでよ。俺達は何も見てないから。……ね? パイモン」
「へぇ? ……! そ、そうだぞ! オイラ達は何も見てないぞ!! 吟遊野郎がモラクス像にキスしてる所なんて―――」
「パイモン!」
「あぁ! しまった!!」
嘘を吐けない性格の相棒の失言を止めるも、ちょっと遅かった。
ウェンティに詰め寄り、その周りをふよふよ漂うように飛び回るパイモンは必死に先の失言のフォローに勤しんでいる。
空はそんなパイモンのフォローとばかりにもう一度友人の名を呼び、一つの『契約』を提示した。
「俺達が今見たことは、絶対に誰にも言わない。何があろうとも墓場まで持っていくって約束するから、安心して」
「旅人……」
「そうだぞ!! たとえ鍾離に岩喰いの刑に遭っても、絶対、ぜぇぇぇったい喋らないから安心しろ!!」
どんな拷問をされても秘密は守ると訴えるパイモンに、ウェンティが見せるのは困ったような笑い顔だった。
「君達に其処まで言われたら、『信じるよ』以外言えないね?」
「そうだぞそうだぞ!」
「勿論、パイモンが失言しないように俺がちゃんと見張っておくよ」
「旅人!」
「あはは。うん。頼んだよ、旅人」
漸く戻った笑顔に安堵する空は、先程彼が秘めた恋慕を示していた神像へと視線を向けた。
今から岩神モラクスの七天神像に祈りを捧げモンドに向かうつもりだったが、先の光景を見た後では少し祈り辛いと思ったり。
空はちらりと友人に視線を向ける。するとそれに気付いたウェンティが「どうしたの?」といつも通りの様子で小首をかしげて見せた。
(わざわざ蒸し返すこともないよな。……よし、鍾離先生へ祈りを捧げるのは、また今度にしよう)
友人になんでもないと笑い返す空は、パイモンに目配せをして「それは、モンドに向かおうか」と出発を促した。