モンドで数日過ごした後、懐かしい面々に暫しの別れを告げて再び旅に出る空とパイモンは今、荻花洲を越えて帰離原の南――璃月港の北に位置する岩神モラクス像が遠方に確認できる場所を歩いていた。
「旅人、あの七天神像で祈りを捧げようぜ」
「うん。そうだね。そうしよう」
隣を歩く――正しくは飛ぶ――相棒が指さした神像に、空は快く同意し、当初の予定よりも随分遅くなってしまったことを笑った。
空の言葉にパイモンは全くだと腕を組み、驚きのあまり折角鹿狩りで美味しい料理を食べたのにあまり覚えていないと愚痴っていた。
覚えていない割に『美味しかった』と言っている相棒に空は笑い、友人の秘めた恋心を思い出して何故か少し切なくなった。
「旅人? どうしたんだ?」
「ああ……、いや、ちょっとね」
「ひょっとして、吟遊野郎の事か?」
「んー、まぁ、そう……だね」
微妙な返しをしてしまったと反省する空は「ごめん」と謝りながらモラクスの神像が祀られた方向へと視線を向けた。
「なんだか切ないなと思ってね」
「『切ない』?」
「うん。……俺はずっとウェンティと鍾離先生は腐れ縁の友達みたいな感じなんだろうなって思ってたからさ」
「それは、……オイラもそうだぞ……」
「でも、俺達がそうやって勘違いしてる間も、……それよりもずっと前から本当は鍾離先生の事が好きだったんだって考えたら、なんだか、ね」
上手く言えないけど、なんだか胸が苦しくなった。
そう苦笑を漏らす空に、パイモンの眉も下がる。
自分の胸に手を当てる相棒は、「なんで……」と言葉を零し、空の苦しみに同調しているかのようだった。
「なんで吟遊野郎は素直に『好きだ』って言わないんだろうな」
「きっと『言わない』んじゃなくて、『言えない』んじゃないかな」
「? どういうことだ?」
「ずっと友達として傍にいた相手に特別な感情があるって伝えるのは並大抵の勇気じゃ無理だと俺は思うよ。だってそれを口にすることで相手との関係が無くなってしまうことだってあるでしょう?」
「それは―――、それは、そうだけど……」
空の言葉に視線を下げるパイモンは、それでも言わない気持ちをずっと抱える方が苦しいと思うと心中を吐露した。黙っている事で大切な人を裏切っていると罪悪感にも苛まれるはずだ。と。
「はは。なんだか気持ちが入ってるね」
「! そ、そりゃそうだろ!? なんてったって『友達』のことなんだぞ!?」
「分かってるよ。……でも、そうだね。きっとウェンティも言いたいけど言えない罪悪感のようなものをずっと抱えているのかもしれないね」
秘めた想いが誰かに――鍾離に知られないように必死に隠していただろう友人の姿を思い出すと、秘密を盗み見てしまった事への申し訳なさを覚える。
あの日空達が見た光景は、おそらく初めてのことではないだろう。抱えきれない想いを誰にも気づかれることのないよう吐き出すために、彼は愛しい友人を象った神像へと何度も口づけを贈っていたに違いない。
そして、自分達がそれを知ったせいでウェンティが唯一素直になれる時間を奪ってしまったのかと思うとどうにもやるせなかった。