「旅人、パイモン。久しいな。二人の旅路は変わりないか?」
「こんにちは、鍾離先生。俺達は特に変わりないよ。ね? パイモン」
「そ、そうだぞ! いつも通り! めちゃくちゃ順調だぞ!!」
駐屯所の前を通りかかれば、かけられる声。
それを無視するわけにもいかないと『いつも通り』を貫く空は朗らかな返事を返すのだが、パイモンはやっぱり明らかに挙動不審になっていた。
それに呆れながらも特に気に留める様子もなく「こんなところで鍾離先生に会うとは思わなかった」と、話題を続ける空。
鍾離は何を考えているのか視線をパイモンに向けていたが、直ぐに空に向き直るといつも通り人当たりの良い笑みを浮かべ旅を労ってくれた。
交わす言葉は当たり障りのないものばかり。一見するといつも通りと見えなくはない。
だが、自分達を知る者なら、明らかに違和感を覚えるだろう。何故ならパイモンが終始無言なのだから。
相棒の態度に空は内心ヒヤヒヤする。これでは鍾離先生に突っ込まれるよ? と。
しかし空の心配をよそに、鍾離はパイモンの異変に気付きながらも彼女の態度に触れることは無かった。
それどころか会話を切り上げ、自分達を先に向かわせようとしている風にも感じた。
(んん? なんか変だと思うのは、気のせい、か?)
聡明な男性に違和感を覚える。だが直ぐに彼なりの気遣いだろうと自分に言い聞かせ、無かったことにする。
やがて会話も途切れ、そろそろ璃月港に向かうことを告げれば、鍾離は道中の安全を祈ってくれた。
神様に祈願されるなんて贅沢だなと思いながらそれに礼を伝え立ち去ろうとしたその時、先程まで穏やかだった鍾離に緊張が走った。
不自然に止まる動きの後、彼は背後を振り返る。
慌てて空もそれに続くのだが、彼が警戒するような『何か』は見つけることができなかった。
「鍾離先生?」
一体何が起こっているのかと尋ねることも憚れれる。それほどに彼の緊張が伝わり、何か良くないことが起こっている事だけは理解できた。
鍾離の視線は、空が思っているよりも遠くに向けられている。
その方向に何があるのか。空は視線の先を思い出す。そして、その方向には彼を――岩神モラクスを模した七天神像が祀られていることを思い出した。
七天神像に庇護された土地は、その像が近ければ近いほど災いから遠ざかる。
それなのに何故鍾離は彼の方向にこれほどまで警戒を露わにしているのだろうか?
しかし、考えても分からないものは分からない。
空は答えを求めるように彼の名を呼んだ。
「鍾離先生、何かあったの?」
「! ああ、すまない。……旅人、すまないが、少し頼まれてくれないか?」
「内容によるけど、でも鍾離先生が無茶なことを言うわけないよね。うん。分かった。何?」
神妙な面持ちで此方を振り返る鍾離に、空の気も引き締まる。
返した頷きに鍾離は口を開き、この先にある七天神像の付近で問題が起こっていることを告げてきた。