TREMOLO [ANNEX]

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七天神像と感覚が繋がっている岩神の話



「ありがとうございますありがとうございます!!」
 ものすごい勢いで感謝を伝えてくる商人に、偶々通りかかっただけだと礼を丁重に辞退した空は彼の背後で自分達の力不足を恥じて言葉失う項垂れている護衛の男女に声を掛けた。
 危機に瀕した彼らを助けたわけだが、それでも結果的に彼らの面子を潰してしまったことに変わりない。
 しかし、謝罪しようとした空よりも先に二人は主人と同様大地に額を擦りつける勢いで感謝を伝えてきた。
 今後はこのような事態に陥らないよういっそう精進するとも言葉を続ける護衛二人の言葉に、主である商人は「命があってよかった」と各々の無事を喜んでいた。
 良い主従関係だと空の表情には自然と笑みが浮かび、まだ近くに残党が居る可能性を考えこのまま三人を安全なところまで護衛しようと申し出れば、酷く恐縮されてしまった。
 自分達の行く先も同じ璃月港だからと申し出を断りそうな勢いの三人に半ば強引に付いて目的地に到着すれば、騒ぎを何処から聞きつけていたのか不卜廬の店主・白朮が直々に治療のために三人を連れて行ってくれた。
 白朮と三人を見送った空とパイモンは暫しの沈黙の後互いに顔を見合わせ、次の瞬間大きく脱力して見せた。
「なんか、色々出来過ぎてる気がするぞ……」
「そうだね。俺もそう思うよ」
 千岩軍の駐屯所で鍾離を見かけた時、何故このタイミングで? と直感的が働いたことは間違いではなかったようだ。
 いや、鍾離は自国の民の危機を察して助力を求めてきただけかもしれないが、何かが引っ掛かる。
「なんで白朮の奴、怪我人がいるって分かったんだ? あいつ、『お待ちしてました』って言ったよな?」
「うん。言ってた」
 考え込んでいた空の思考を纏める手助けをするかのように己の疑問を吐き出すパイモン。
 相棒の助言を交え考え込んでいれば、背後から「旅人」と、良く知った声が―――自分達に危機を教えてくれた鍾離の声が届いた。
 正直飛び上がりそうなほど驚いたが、何とか平静を装い振り返る。
 するとそこには予想通りの姿があって、彼は自分の動揺を察してか困ったような笑い顔を浮かべていた。
「鍾離先生、どうして此処に?」
「いや……、説明すると約束しただろう? だがお前が怪我人を放置する性格でないから、おそらく先に璃月港に戻るだろうと思ってな」
 説明を受けるためにわざわざ来た道を戻らせることも忍びない。
 そう言って自分がこの場にいる理由をまず説明してくれる鍾離に、空が向けるのは訝し気な眼差しだ。
(どうして怪我人がいるって知ってるんだ? もしかして、不卜廬に連絡を入れたのは鍾離先生? ……でも、どうやって状況を知ったんだ?)
 確かに鍾離には自分の想像を絶する力があることは知っている。
 だが、それでも解せない。賊が商人を襲撃したことは戦いの気配で察することはできたとしても、怪我人の有無まで分かるわけがないからだ。
 まるでその場に居たかのように状況を正確に理解している男性は、絶対にあの時、あの場には居なかったはずだ。
 それなのに、一体どうして彼は全てを知っているのだろうか?
「そんな顔をするな。……その疑問について説明をするために追いかけてきたんだ」
 苦笑を濃くする鍾離は、他者の耳に入らない場所で話そうと歩き出した。
 先を歩く鍾離の姿に空とパイモンは一度顔を見合わせ、小さく頷き合う。
 誰かに聞かれては不味い話ということはつまり、『疑問』の答えは彼の正体に関係していることなのだろうと理解できたのだ。



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2024-04-29 公開



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