散々な言葉を投げかけたのだ。いくら能天気な風神と言えど、腹を立てて帰るに違いない。
そう思っていたモラクスだが、予想は裏切られた。
普通なら怒りを露わにするだろう暴言にもバルバトスは苦笑いを浮かべるだけで腹を立てることもせず、また、呆れた様子もなかった。
元より変な感性を持っている奴だとは思っていたが、此処までとは恐れ入るモラクス。
しかしそんな彼の心中などどこ吹く風と、バルバトスは何も言わず空を眺めていた。
その横顔にはうっすら笑みすら浮かんでいて、気味が悪い。
モラクスはいまだ隣に居続ける悪友を訝しむのだが、何を言っても無駄だと悟ったのだろう。
何も言わず、彼もまた空を眺めた。
悪友はおしゃべりな男だ。そして騒がしいことが大好きな呑兵衛でもある。
きっと言葉を交わすことなくただ空を眺めて過ごすことなど、バルバトスの性分ではないはずだ。
それなのに何故此処に居座るのかと考えるモラクスは、自身の先の悪態の腹いせに居座っているのだろうと結論を導き出す。
(なるほど。全く、やることが一々幼稚な奴だ)
此方の都合などお構いなしで子供じみた嫌がらせをしてくるバルバトスに、モラクスは呆れたと息を吐く。
だが、そっちがその気ならばとモラクスも応戦の気概を見せた。
賑やかな雰囲気を好むバルバトスのことだ。今は良くとも、持って精々一日だろう。
自分はその間悪友の相手をするつもりも無ければ、話しかける気もなかった。
元より一人静かに過ごすつもりだったのだ。文句を口にしようものなら、力づくで追い出せばいいだけの事だ。
そんなことを考えながら箱庭に流れる偽りの雲を眺めるモラクス。
時折、視界の端に動きがあったが、バルバトスが彼に接触してくる様子は無かった。
ただ二人肩を並べ、空を眺めるモラクスとバルバトス。
きっとこの光景を他の者が見れば、異様なモノだと思うだろう。他の七神からすれば、嵐の前触れかと慄くかもしれない。
あのバルバトスが大人しくしているなんて、と。
そして、あのモラクスが呆けているなんて、と。
ぼんやりとそんなことを考えていれば、ふと耳に届く、美しい音色。
それは風の音ではなく、獣たちの鳴き声でもない。視線を音色のする方――空から隣のバルバトスへと移せば、悪友の手にはライアーが握られていた。
指でそれを弾く姿は美しく、目を奪われる。
奏でられる音色もさることながら、ライアーを奏でるその姿も全てが完璧だと思うモラクス。
(もっとも、これが黙っていれば、だがな……)
人を煙に巻くように己を隠して他を暴く性格さえなければ、バルバトスはまさに自分の理想そのものだろう。
その美しい姿は勿論、愛嬌のある笑い顔も実は気に入っているのだから。
そう。バルバトスの唯一であり絶対的な欠点は、性格。それさえ治れば、自分は―――。
そんなことを考えていたモラクスだが、美しい音色が不自然に途切れれば其方に意識が向くというものだ。